国家の大変化の中、雄々しく生きる人々に感銘

児童文学の名作「モモ」(ミヒャエル・エンデ 著・岩波少年文庫)

どんな状況であろうとも、私たちは生きていかなくてはならないものだ、と感じた映画はもうひとつあります。中国の監督チャン・イーモウの作品『活きる』です。監督にインタビューする機会があり、取材前に彼の作品を全部見たのですが、なかでもこの作品に大きく心を揺さぶられました。

1940年代から文化大革命へと突入するまで、大きく時代が動くなか、時代の波に翻弄(ほんろう)されながらも、人々は図太く生きていく。自分の力ではあらがえないような境遇になって、どんなに悲しくても、クスッと笑えるようなユーモアが日常には転がっているもの。だからなんとか生きていける! そうした毎日の積み重ねが、私たちの“活きる”だと思い知らされます。

●大江麻理子さんのバイブル

▼BOOK

『モモ』ミヒャエル・エンデ 作

とある町はずれの円形劇場跡に迷い込んだ、不思議な少女モモ。モモに話を聞いてもらうと幸福な気分になれるので、彼女のもとへどんどん人が集う。そこへ“灰色の男たち”がやって来て、人々をインチキな計算で丸め込み、“時間”を盗んでいく。岩波少年文庫/800円

『哲学の教科書』中島義道 著

物事を徹底的に疑うことが原点だという著者が、「哲学とは何でないか」を厳密に想定することで、その本質を明らかにした一冊。難解になりがちな哲学の概念を自身の経験を交えて、平易な言葉で著した。初心者でも理解しやすい、まさに「教科書」。講談社学術文庫/1170円

▼MOVIE

『この世界の片隅に』原作:こうの史代 監督:片渕須直/2016年/日本

広島市出身の主人公・浦野すずは、想像力が豊かで絵が上手。北條周作と結婚して呉に移り住むが、戦時下で物資や配給がどんどん不足していく。持ち前のユーモアと知恵で苦しい生活を乗り越えていくが、日本の戦局はどんどん劣勢に向かう。そして広島に“あの日”がやってくる。

『活きる』監督:チャン・イーモウ/1994年/中国

中華人民共和国が誕生した1940年代、戦争の総括が続く50年代、そして60年代の文化大革命まで、激動の時期を迎えた中国が舞台。裕福な家庭に育ちながらもばくちで一文無しになった福貴と、そんな夫を支える妻の家珍が主人公。数々の困難にあっても、彼らはたくましく“活きる”。

大江麻理子(おおえ・まりこ)
テレビ東京・報道局キャスター
1978年生まれ。フェリス女学院大学卒業後、2001年にアナウンサーとしてテレビ東京に入社。報道、情報、バラエティーなどさまざまなジャンルの番組を担当。ニューヨーク支局勤務を経て、14年より「ワールドビジネスサテライト」(WBS)のキャスターを務める。

※『プレジデントウーマン』(11月号)の特集「大人の教養『本&映画』ガイド」では、テレビ東京の報道キャスター大江麻理子さんのインタビューのほか、「知性と好奇心が磨ける教養本74冊」「「本当に大切なことを教えてくれる名画44選」「シリコンバレーで働く女性は、こんな本を読んでいます」などを紹介しています。本選びの参考に、ぜひ手に取ってご覧ください。

 

文=東野りか 写真=iStock.com