楳図かずおの最高傑作『漂流教室』はSFホラーの金字塔だ

楳図かずおさんの『漂流教室』は、怖いというよりは物凄くよくできたSF。

ある小学校が突然消滅し、校舎ごと時空を超えて漂流する。面白い描写があって、消えた生徒の母親が、現実界でビルの壁に穴を開けて包丁を突っ込む。未来空間でその生徒が錯乱状態の学校事務員に殺されかけているまさにそのとき、そばの壁が崩れて包丁が現れる……SFホラーなんてジャンルもまだない、映画『ターミネーター』なんかより20年も前ですよ。

この人はもう、本当に天才。何で一番有名な作品が『まことちゃん』なのかよくわかんない。近年、日本のマンガを狙っているハリウッドに、ぜひ実写で撮ってほしい作品の最右翼ですね。

今回のリストには入れていませんが、『半魚人』も凄い。頭の狂った博士が「もうすぐ大洪水が起こる。半魚人になるしか人間の生きる道はない」と、捕まえた少年を手術台に縛り付け、生きたまま顔を切り刻んで魚に改造していく。実写化してほしくはないけど(笑)、能面師が自らの顔の皮を剥いで究極の能面を作る『肉面』と並ぶ、楳図ワールドが凝縮された作品です。

ちばてつやさんの『餓鬼』を読んだ頃はもう20代でしたが、いやもう、とにかく凄かったという記憶しかない。『あしたのジョー』から『島っ子』『テレビ天使』といった少女マンガまで人情味溢れるちばさんの傑作群とは真逆で、主人公が永山則夫連続射殺事件(1968年)を彷彿とさせる少年殺人鬼なんです。推理作家エラリー・クイーンの異色作『第八の日』に匹敵する衝撃があります。何でこれを描いたのかすらわからない。ちばさんとは親しくさせていただいてますが、いまだにそこを聞いてないんですよね。

お次は石ノ森章太郎さんの『佐武と市捕物控』。初めて読んだときは、こんなの続くはずがないなと思った。だって、時代劇なんて時代考証なんかも考え出したら、一つや二つ小説読んだくらいで描けるもんじゃないでしょ。なのに、話の運びは時代劇そのもの。

石ノ森さんも勉強量は凄かったと聞いていますが、あのリアリティ、スピード感っていうのは、資料をたくさん調べりゃ出せるってもんじゃない。小説家みたいなクリエイティビティ。『サイボーグ009』のすぐ後にこんなの描いちゃうんですからねえ。一度でいいからお会いしたかった。

(構成=大塚常好 撮影=若杉憲司 撮影協力=アジールエッセ浦和店)