「自らの意思に基づく譲歩」――これが尖閣問題を解く具体策だ

尖閣の今の事態を動かすには、中国を圧倒するだけの力を持ちに行くか、それともいったんは退く・譲歩するしかない。もともとは尖閣を日本が国有化したところから、中国との緊張関係が始まった。

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日本国内の不動産登記手続きに過ぎない国有化をいったん引き下げて、その代わり、日本が主張する領海域、接続水域に中国公船が侵入しないことを約束させる。約束以後もし中国公船が侵入した場合には、それこそ登記上の国有化を再度実行し、さらには尖閣に港や灯台やその他の施設を設けることを宣告する。だいたい尖閣を先に国有化してきたのは中国なんだよ。中国は1992年に領海法を制定して尖閣を中国領土と宣言した。このときに日本は大騒ぎしなかった。騒いだ方が領土問題化するとして無視したらしい。

にもかかわらず、今度は日本が国内登記で国有化し、中国から大騒ぎされるようになった。日本が国有化を取り下げるなら、中国のこの領海法による国有化も取り下げさせる必要がある。

日本は、尖閣に領土問題は生じないと型にはまった主張を繰り返しているけど、今や尖閣防衛が日本の防衛問題の大きなテーマになったことは間違いない。そして日本の国力からして、そこに割かれる政治行政のエネルギーが、日本全体の海洋資源の保護、そして日本全体の防衛力を弱めてしまっていることも事実である。尖閣に投入する政治行政のエネルギーは日本全体の海洋資源の保護や日本全体の防衛力強化の方に回すべきだ。そして中国も尖閣に投入している政治行政のエネルギーを効率化したい、他に回したいと考えているはずだ。

そうであれば、このような交渉をすることこそが事態を動かす交渉である。日本自らに「力」がないのであれば、「自らの意思」に基づく「譲歩」が必要になる。

譲歩するにしても、力を持つ意思と能力を示してから譲歩することも交渉の鉄則だ。北朝鮮も核保有の意思と能力をしっかり示してから、今度は譲歩の姿勢を示している。完璧な交渉プロセスだ。

日本も尖閣については、国有化や防衛強化という意思と能力を示した。その上で、譲歩による交渉に移っても、日本にとって著しい不利益とはならない。むしろ日本全体にとってはプラスになる事態に持ち込める。

日本が尖閣の国有化を取り下げる代わりに、中国の国有化も取り下げさせ、お互いに軍事的な緊張を解消する。日本はそこに割いていた政治行政のエネルギーを他に回す。その上で、いったん約束したことを中国が破ってきたなら、徹底した強硬策を講じる。これが事態を動かす交渉というものだ。今のまま尖閣に人とカネをつぎ込み続けても、日本にとってプラスの事態にはならないだろう。そして法を重視する日本としては、フィリピンが南シナ海における領海を守るために国際機関を用いたように、尖閣が日本の領土であることのお墨付きを国際機関から得られるように努力する。

まあこんなことを言ったら売国奴! という激しい批判を浴びることになるだろうから、日本の政治家にはこんな交渉はできないだろう。でも、何の戦略性もなく、ただただ口だけで威勢のイイことを言って、人(自衛隊や海上保安庁の力)やカネ(税金)を消耗することの方がよっぽど売国奴なんだよね。

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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.102(5月8日配信)を一部抜粋し、修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【超実践・交渉術】なぜ北朝鮮情勢は動いたか? 国際関係から学ぶ「交渉の極意」》特集です!

(写真=iStock.com)
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