半導体子会社の売却先が決まり、東芝はギリギリのところで上場廃止をまぬがれた。だが、すべての問題が解決したわけではない。東芝にはまだ最大で1兆円の損失が発生する「LNG債務」があるからだ。なぜ東芝はこれほどのリスクを抱えてしまったのか――。

債務超過が解消されず上場廃止もある

東芝の上場維持を巡り、危惧されていた3つの問題が解決した。

東芝にはもう一つの火種が眠っている。

ひとつは「債務超過」だ。東芝は10月24日、臨時株主総会で半導体子会社「東芝メモリ」の売却を提案し、承認された。売却先は米ファンドのベインキャピタルを中心とした日米韓のコンソーシアム。これまで売却先をめぐって迷走を続けたが、売却が済めば約2兆円の資金が入る。さらに6000億円の増資も決まり、売却が遅れたとしても債務超過の心配はなくなる。

2つ目は、今年6月の定時株主総会で報告できなかった2017年3月期決算だ。これも今回の株主総会で承認された。

3つ目は、「特設注意市場銘柄」の解除だ。東京証券取引所は、内部管理体制に問題があるとして、2015年9月から東芝株を「特注銘柄」に指定していた。だが審査の結果、「内部管理体制は改善した」として、10月12日に指定を解除した。

しかし東芝の抱える問題はこれだけではない。最大で1兆円の損失が発生する案件を、まだ抱えているのだ。それは2013年に結んだ米国産LNG(液化天然ガス)の大型契約である。

天然ガスには、大きく2つの輸送方法がある。ひとつはパイプラインでガスのまま運ぶもの。もうひとつは、大型プラントで液化し、タンカーなどで運ぶものだ。このうち後者をLNGと呼ぶ。日本には海外からのパイプラインがないため、液化してタンカーなどで運ぶしかない。

東芝は2013年、米テキサス州のフリーポートLNG社との間で、年220万トンのLNGを2019年からの20年間引き取る「液化加工契約」を結んでいる。これは液化した数量にかかわらず、液化費用を設備会社に支払うもので、20年間で約1兆円の支払いが見込まれている。つまりLNGが全く売れない場合には、最大で1兆円近い損失が発生する計算となる。

これについて東芝の平田政善専務は、11月9日の決算会見で、「今の目線なら年間100億円の損失は覚悟している。20年間の累計で2000億円になる」と説明している。

なぜ東芝は、これほどリスクの高いLNG事業に進出したのか。ここには東芝が原発大手のウエスチングハウス(WH)に手を出したのと同じ構図がある。

東芝がWHを買収したのは2006年。当時、東芝にとって原発事業は稼ぎ頭の中核事業だった。だが、反対運動などで日本での原発建設は遅々として進まず、新設も難しい状態にあった。そのため事業は原子力発電所のメンテナンスなどが中心になり、成長産業から成熟産業となっていた。