休日の終わり、帰りの気分にぴったりなのは……
さて、日中のアクティビティも楽しんで、近くの温泉にでも入り、美味しいものを食べて心も体もリフレッシュしたら、帰りの音楽にもこだわりたい。楽しい休日の終わりを惜しみながら、また明日から頑張ろうと思えるような曲がいい。
西にまだ夕日の端が残り、ノスタルジックな思いにかられるこんな時は、篳篥(ひちりき)の音がよく似合う。篳篥は、雅楽や神楽で用いる竹製の管楽器(縦笛)である。日本古来のこの楽器の音はお正月に聞くことが多いので、選曲を間違うと休日どころか年末年始休暇感になってしまうから注意が必要だ。
ここでは、「赤とんぼ」や「夕焼け小焼け」などの童謡を、篳篥で演奏したものを選ぶのがよい。雅楽奏者の東儀秀樹さんが、日本の歌を篳篥で演奏したアルバムを作っている。柔らかく優しいが、どこか一本筋が通った冴え渡る音色で、懐かしい童謡をゆっくりとかみしめるように聴くことができる。篳篥で演奏されたこれらの童謡は、心の奥底に眠る本来の自分を抱きしめてくれるような、不思議な温かさがある。歌詞がないぶん、さらに自分自身のイマジネーションを増幅させ、幼い頃の柔らかな思い出と、今日の自分とを温かく融合させる。帰り道のなんとも言えない寂しさを十分にかみしめさせてくれる。
休日の終わりにこれらの曲が最高に合うと気がついて以来、人に会うたびに勧めている。みなさんなかなか好評である。帰路ドライブでは、もうしゃべる気力もない。そんな時に懐かしい日本の音楽を浴びると、心がまた回復してくる。今日のスコアがどれほど悪かろうと、いい波を先に全部隣の人に乗られようと、クーラーボックスが空のままであろうと、そんなことはささいな事だと思える。やはりわれわれの心を癒やしてくれるのは、日本の自然に日本の楽器、そして日本の歌なのだ。
カラスと一緒に帰りましょう。そっと、ゆっくりと、休日のスイッチをオフにして。明日からまた、みんながもう一度頑張れますように。そしてまた、こうして充実した休日を過ごせますように。
・プッチーニ作曲 オペラ『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」
・モーツァルト作曲 オペラ『フィガロの結婚』より「序曲」
・モーツァルト作曲 オペラ『フィガロの結婚』より「恋とはどんなものかしら」
・山田耕筰 作曲「赤とんぼ」(演奏:東儀秀樹)
・草川信 作曲「夕焼け小焼け」(演奏:東儀秀樹)