本音のように話すにはテクニックがあります。それは「少しためてから話し始める」ことです。人間はウソをついていると早口になるクセがあります。そこで、ためてから話すことで、しっかりと心の内をさらしていると相手を錯覚させます。他に気をつけたいのは、ゆっくり話すことです。ゆっくり話すことで、相手はあなたが落ち着いていると考え、誠実ささえあると勘違いするのです。
もしも、自分の発言が部下に本音ではないとバレたらどうするのか、と心配する方もいるかもしれません。しかし、それは杞憂です。
こちらが何度も本音を引き出し、あなたに心酔させた部下であれば、仮に疑われるようなことがあっても、ちょっとのフォローで効果があります。たとえば、「あのとき、部長の意見に賛成かのように言ったけど、それも、じつはお前のためだったんだよ」というように。一度信じ込ませれば、それがまた本音に聞こえるのです。
取引先に面倒な要求をのます「ドッグラン」
ビジネスの世界では、ときには厳しい要求や手間のかかるお願いを、取引先に頼み込む必要が出てきます。そんなときに使える心理術が、この「ドッグラン」です。
これは一言で言うと、相手に「ごほうび」を提示するということ。ようは、ドッグレースの犬の前にぶら下げる肉のようなものです。日本では「馬の前にニンジンをぶら下げる」という表現のほうがわかりやすいでしょうか。
たとえば、ある製品を、取引先に急遽、追加発注しなければならない、しかし先方が納期に間に合いそうにないという場合。この心理術を用いて、次のように交渉します。
「じつは、うちと関係のある会社が、今度御社に発注することを考えているんです。ただ、御社の機動力を買ってのことで、今回のようなケースに対応していただけないと、話がなくなるかもしれません。何とか間に合うようにしていただけませんか? 新しい取引を逃すのはもったいない話ですし……」
何なら、これは架空の話でも構いません。あとになって、「じつはあの話が先方の都合でなくなってしまって……」と言えばいいだけの話です。もちろん、それでは良心が痛むという方もいるでしょうし、あまり多用すると、築いてきた信用を失います。どうしても、というときだけ使ってほしいテクニックです。
「ビジネス心理術」はあらゆる人間関係で主導権をにぎれる強力な「武器」です。しかし、すべての武器がそうであるように、それを生かせるかどうかは持ち主次第。節度を持って活用してください。
1972年、香港生まれ。メンタリスト。ビジネス心理術の専門家。幼いころよりイギリス、カナダ、日本とさまざまな国々で暮らし、4か国語を操る。現在は独自のビジネス心理術をもとにしたセミナーを開催し、サービスや接客業のビジネス現場で、いかにお客様の心を読んで主導権をにぎるかを指導。2015年、「一般社団法人日本マインドリーディング協会(JMRA)」を立ち上げるなど、さらなる心理術の開発・発展に尽力中。