もう1つは、新しい価値を生み出すという点です。IoTでは、自律的なシステムの中で再びモノの側に戻ってきた情報をもとに、ユーザーに新しいコト(経験)を提供します。様々な産業でサービス化(製品というモノではなく、製品やサービスを利用して得られるコトを提供する)が起きていますが、IoTがそれを後押ししているのです。

これについて具体的に考えてみましょう。自動車業界で今話題になっているのは自動運転技術です。ただ、自動運転が可能になっても、自分で運転しなくてよくなるくらいで、新しい価値を直接生み出すわけではありません。

しかし、そこにIoTが加わるとどうでしょうか。自動運転車と信号機が通信しあって渋滞のない最適ルートが導き出されるなど、新しい交通システムが生まれるかもしれません。あるいは車内でも、移動中にテレビ会議をしたり、写真撮影をして友人とネット上でシェアしたりするなど、これまでとまったく違う時間の使い方が生まれる可能性もあります。

変化がもたらされるのはユーザーの暮らしだけではありません。IoTで新しい価値を提供することが当たり前になると、企業は自社の守備範囲を見直す必要に迫られます。前述したように、自動車メーカーはクルマだけをつくっていればいいのではなく、最適な交通システムや、会議室や撮影スタジオについても精通しなければいけなくなる可能性があるのです。

こうした時代の変化にビジネスパーソンも対応していく必要があります。つまり、自社がIoTを使って新たにどんな製品やサービスを実現できるかを考えるビジネス発想力を磨かなくてはならないのです。

そのために皆さんにまずやっていただきたいことは、マインドセット(考え方の枠組み)を変えること。自らデジタルの世界を体験して、新しい感覚に近づかなくてはいけません。たとえば、LINEやインスタグラムは知識として知っているが、使ったことがないという人は多いのではないでしょうか。心当たりのある人は、いますぐアプリをダウンロードしてください。自らユーザーとして新しいコトを経験することで、IoT時代に対応する第1歩になるでしょう。

三菱総合研究所主任研究員 大川真史(おおかわ・まさし)
大学卒業後、IT企業を経て2006年に三菱総合研究所入社。専門領域は、製造業のサービス化、ユーザー起点の新サービス開発。IoTに関する調査、研究、情報発信を行っている。
 
(構成=村上 敬)
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