「トップの覚悟」って何だ?

「働き方改革」については、「トップの覚悟が必要だ」という常套句も使われる。しかしトップがどうであれ、「働き方改革」で負荷がかかるのは、現場の従業員である。特に管理職への負荷は大きい。経営から降りてくる目標の難易度は高度化しているにも関わらず、より少ない時間で仕事をこなさなくてはならない。しかも、多様なメンバーをマネジメントしなくてはならない。

出産・育児や介護と両立する社員、障がいのある社員、高齢者、外国人、性的少数者、中途入社の者、雇用形態が異なるものなど、マネジメントは複雑化している。もちろん、多様な人材を雇用し、活用するのは社会の要請であり、正しいことだ。ただし、管理職の負荷が増えていることを忘れてはならない。

どうして「社畜」と自虐するのか

曖昧な言葉はほかにもある。トップに「覚悟」が求められる一方、現場の従業員は「社畜」と揶揄される。ここで「社畜根性を捨てろ」といっても、あまり意味がない。考えるべきことは、「どうしてそのような社畜根性をもった社員が多いのか」という点だろう。

日本の労働者は激しく競い合っている。特に総合職の正社員であれば、職務の範囲は明確ではなく、あらゆることを求められる。しかも、同期全員が「課長以上」の椅子を目指すことになる。これは民間企業に限らず、公務員でも同じである。

「仕事の内容がどんどん変わる」「どこまでもやる」「とことん成長を求められる」。そんな日本的な働き方は「空白の石版モデル」と呼ばれている。職務がどんどん変化していくため、特別なスキルを磨くことより、会社に奉仕することのほうが優先される。その結果、「社畜」が合理的な選択肢になってしまうのだ。

そして、そんな「社畜」の道もラクではない。目指す「課長以上」の仕事は、高度化し、難易度が上がっているからだ。

リクルートワークス研究所は「人材マネジメント白書2015」で、日本企業の人材マネジメント上の現状と課題を調査している。調査対象は東証一部上場企業1895社で、そのうち176社からの回答をまとめたものだ。このうち「認識している課題と特に重要な課題(3つまで)」という項目で、1位は「次世代リーダーの育成」(94.3%)、2位は「ダイバーシティ(女性等)の推進」(92.0%)、3位は「新卒採用力の強化」(88.6%)、4位は「メンタルヘルスへの対応」(86.9%)、5位は「ワークライフバランスの強化」(77.8%)となっている。

つまり、いまどきの管理職は、新卒や女性を次世代リーダーとして育てながら、メンタルヘルスやワークライフバランスにも目配せしなければいけないわけだ。