福島第一原発事故の被害は拡大の一途だ。おそらく巨額の賠償金を抱えることになる東京電力が契約する損害保険や、国の補償範囲の行方に注目が集まる。

原子力事業者=電力会社による損害賠償を定めた原子力損害賠償法(原賠法)では、事業者に対し、一般的な事故の場合に適用する原子力損害賠償責任保険(民間保険契約)と、自然災害の補償を政府が援助する原子力損害賠償補償契約(政府補償契約)の両方を締結する(供託金も可)ことが義務づけられている。

前者については、原発が抱える巨額補償のリスクを分散するため、複数の保険会社が保険の保険=再保険によって共同で負担し合う。ただ、地震・津波・噴火などの自然災害による被害はリスクが大きすぎるので、約款で免責される。今回東電が保険金を受け取るのは難しそうだ。

後者の政府補償契約は、事業者=東電の負担が大きすぎる場合、代わりに国が補償する制度。年6000万円の補償料を納付し、いざというとき(責任保険による賠償で事業者に損失が生じた場合)に、政府から「1事業所当たり最高1200億円まで」の補償を受けられる。

もっとも、東電が今回の被害者に支払う賠償額は数兆円規模と予想される。仮に1200億円が東電に下りたとしても、焼け石に水。内部留保2兆円ともいわれる同社だが、廃炉が必至で経営面も危ぶまれており、単独の補償では足りそうにない。

実は原賠法には、前二者とは別に、社会的動乱(たとえば戦争)や、巨大な天災地変で賠償責任が賠償措置を超えるような場合、「政府が必要な措置を講じる」(第17条)との例外規定がある。地震と津波が直接の原因とされる今回の事故で、気象庁は地震規模をM9と発表し、文科省も財務省も一時は例外規定を適用せざるをえないのでは、との判断に傾いた。その場合、法的には東電が行うべき賠償をすべて政府が税金で肩代わりすることになるわけだが、国有化案も浮上した今は、最終的な決着は見えてこない。