羊飼い型のマネジメントスタイル
この一件の後、その上司の配下を逃れ、インターナショナルディレクターとして約60カ国で担当ビジネスの世界展開を手掛ける。まさに水を得た魚。もし東日本大震災が起きなければ今も世界中を飛び回っていただろう。
「震災直後はアメリカから何もできなかったので、自分が日本に貢献できることは何だろうと考え、日本の経済や社会を活気づける強いビジネスリーダーの育成ならできると思いました」
思いの種は先の事業立て直しのときにまかれていた。
毎月毎月、業績が落ちる中、メンバーを入れ替えることもできないため、海老原さんは自分の力でV字回復を成し遂げようとシャカリキになっていた。そんなある日、チームにいた若手メンバーが成長を感じさせる提案をした。
「それを見たときのうれしさといったら! 教えたことを全部吸収していました。自分が投入したエネルギーの100倍もの喜びで返ってきたんです。もう病みつき(笑)。部下が送ってきたメールに一言添えて返す。たったそれだけのことでも相手の人生を変えてしまう。そういう地位にいるのは身が引き締まります。同時に恵まれている、ありがたいなと思います」
そのとき海老原さんのマネジメントスタイルが決まったようだ。
「ここに賢くてデキるメンバーだけど『やってられないね』としらけている集団と、能力は標準値だけど『やろうよ。楽しいね』と意欲的な集団があったら、1年後の結果は後者が絶対にいい。一人一人が自分らしく最高のパフォーマンスを出せる環境をつくることが自分へのチャレンジと考えています。自ら新しいことを学べ、成長の実感が持てる組織が理想です」
学習する組織での海老原さんの役割は「羊飼い」だという。
「『あのゴールまで一緒に行かない?』と誘って傍らを歩き、違う方向に行こうとするメンバーを『違う違う』と連れ戻す(笑)」
羊飼い型マネジメントで世界に通じるビジネスリーダーの輩出を目指す。
■Q&A
■好きなことば
ありがとう(この言葉を心から言うことができれば、すべてうまくいく気がします)
■趣味
つまみ細工、プロサッカーの観戦
■ストレス発散
音楽を聴きながらレイキをしたり瞑想をする
■愛読書
『シンクロニシティ未来をつくるリーダーシップ』ジョセフ・ジャウォースキー著
ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケア カンパニー 最高執行役員(COO)。1965年生まれ。90年、東京大学理学部大学院修士課程修了後、住友スリーエム(現3Mジャパングループ)に技術職として入社。99年米国本社に転籍。インターナショナルディレクターとして、約60カ国の世界展開を担当。2013年ジョンソン・エンド・ジョンソンに転職し、16年より現職。
市来朋久=撮影