女性上司の下で緊急事態発生!

アメリカでも最初は技術者だったが、やがてマネジャーとして活躍していく。今度はアメリカから日本へ長期出張することに。スリーエム ヘルスケアのメディカル事業を立て直すためだ。事業部長として2年4カ月でV字回復させ、実績を引っ提げてアメリカに戻る。すると驚くべきことが待ち受けていた。手術室関連のビジネス開発担当マネジャーに着任するのだが、上司の女性が女王様タイプ。初対面で「あなたは私につくの? つかないの?」と詰め寄られた。

「プレゼンテーションがすごくうまくて、現実とかけ離れていても幹部に印象付ける力がありました。彼女のストーリーにそぐわない意見や提案はことごとくダメ出しされました」

(上)9件のUS特許を取得(中)約60カ国の世界展開を担当(下)アキュビュー(R)ストア表参道オープン

女主人になびこうとしない海老原さんは、何かにつけて嫌がらせを受けるようになる。

「何をしても『そんなのダメよ』と言われっぱなしでしたが、ビジネスの結果は出せると思って媚びを売ることはしませんでした」

しかしそんなことは言っていられない事態が起きた。

「私たちのビジネスに関するガイドラインが大きく変わろうとしていました。変更が通ってしまうとビジネスそのものが失われ、相当な痛手を負ってしまいます」

慌てて学術に強いリーダーと一緒に、新しいガイドラインをひっくり返す作戦を練った。ガイドラインを決める団体に対して、変更を思いとどまらせるためにロジックを考え、医学的なエビデンスを探し、さらに、その団体に対してモノを言える人物を選定した。

「最善のアプローチを考え、一歩進んでうまくいったかを確認し、大丈夫なら次の一歩を進めるという詰め将棋にも似た作業を、一つ一つ地道にこなしていきました」

慎重に事を運び、3カ月後に新ガイドラインの取り下げに成功した。さすがに女王様も喜んだことだろう。ガイドラインが通れば自分の責任問題にもなりかねない。ところがニコリともしなかった。

「もしガイドラインが通っていたら、私のクビを切ってその功績で地位を死守するつもりだったはずです」

まるでドラマだ。