――長時間労働がなくなると、どんなことが起きますか?
【小室】まず、国の一番の課題である少子化が改善されます。女性にとって、パートナーの男性や自分自身の長時間労働が出産のハードルになっているというのは、当たり前すぎる事実ですよね。でも官僚も政治家もほとんど男性だから、「労働時間を削減すると少子化が解決する」という肝心なロジックを理解していなかった。私たちがコンサルティングしたリクルートスタッフィングでは、深夜労働が86%削減され、企業内出産数が1.8倍になった。そうした事実を提示していきました。
【白河】第1子が6歳になるまでの間に、夫が家事や育児にどれだけ参加するかで、第2子の出生率が変わるというデータは昔からあるんですが、経済政策にかかわる人の目には映っていなかったのかもしれません。夫の週末の家事・育児時間がゼロ時間だった家庭で、その後11年間、第2子が生まれているのは約1割。一方、夫が週末に6時間以上家事・育児に関わる家庭では、8割が第2子に恵まれている。
【小室】少子化対策は女・子どもの問題と捉えられていたのが、企業全体の労働時間の問題、特に男性の働き方の問題だったと理解されたあたりから、働き方改革に拍車がかかりました。長時間労働が減ると、保育園の延長利用が少なくなり自治体の赤字が減りますし、保育士も定着します。居宅介護もしやすくなり、財政にプラス。日本に山積する課題の根底にあるのは長時間労働なのです。
労働時間に上限を設けるもう一つのメリットは、生産性が上がること。これまで日本企業が長時間労働をしてきたのは、美徳でも文化でもサムライ精神でもなくて、単にそれが一番褒められる働き方だったから、皆がそうしてしまうという評価の仕組みの問題でした。ここに「時間あたり生産性」という考え方をインストールすることは、規模ではなく利益を追求する今の時代の企業が目指していることとピタッと合うんです。日本でもブルーカラーにはシフト制があって、生産性が高い。ホワイトカラーにおいては、時間を手放せば業績が落ちるという思い込みが強く、なかなか手放せなかったんです。
リクルートスタッフィングでは、労働時間に上限を設けたことで、これまで時間外労働ができないことで評価されなかった人材のモチベーションが上がりました。「時間あたりの生産性で評価されるなら私、本気出したい」と。