――今回読者にアンケート調査をしてみて、まだまだそこがわかっていない経営者も多いという印象を受けました。国に言われたから現場に早く帰れと言うだけで、業務改革をするわけでもないので、かえってみんな困っている。

【白河】私も「家に持ち帰るだけだから、かえって迷惑」といった意見を聞きます。結局、見せかけだけの長時間労働是正では、現場にしわ寄せがくる。

【小室】そうなんですよね。なぜそうなるかというと、自分たちだけが働き方を変えてもしょうがないから。わかりやすい例でいうと、売り上げを伸ばすために24時間営業する量販店がありますよね。そのお店にスペースを出している会社は、そこにずっと売り子を付けておかなければいけないので、自社の長時間労働が引き起こされるわけです。量販店側に規制が入らないかぎり、立場の弱い店子(たなこ)は働き方を変えられない。

私たちが09年から4年間コンサルしていたある企業では、トップ同士の話し合いでそれを改善しました。その会社は国交省が主なクライアントで、夜討ち朝駆けの仕事を要求されるし、納期の大半が年度末に集中していました。そこで国交省まで社長が出向き、「そちらが計画性のない発注を改めなければ、業界全体が長時間労働から抜け出せず、この業界に魅力ある人材が来なくなる。それは互いに困りますよね」と、折衝して改善したんです。

【白河】やはり全体の構造の問題から改革するのが重要ですね。

【小室】いま名だたる大企業が、一斉にかじを切り始めていますから、これは大きなターニングポイントです。

【白河】面白いことに、労働時間改革に着手するのは業界ナンバー2の企業からなんですよ。何もしなくても、いい人が採用できるナンバーワン企業は、危機感が薄いから改革が遅れるんです。でもそんな調子じゃ、いずれ逆転されてしまう。長時間労働の大企業より、早く帰れる中小企業に魅力を感じている学生が多いんです。