無意識で根深い女性への偏見
【中野円佳(以下、中野)】「女性だけでなく外国人や高齢者、障害者なども含めたダイバーシティが大事だ」という話が多いのですが、私は女性活用について皆さんのご意見を伺いたいと思います。
日本の女性が置かれている状況を考えると、他国より性別役割規範が強いですよね。女性活躍というとすぐ、「女性というだけで管理職にして、下駄を履かせるのか」と言われるけれど、そもそも下駄を履かせる以前の問題で、普通に立っていない(笑)。いわば、しゃがまされている現状を、立たせることが先だと思います。
教育社会学や心理学でも、女性は男性に比べ自信が持てないとか、成功することに恐怖を感じるということがよく指摘されています。また会社に入ってからも、上司が「女は叱ると泣いてしまう」とか、「過去に女性はすぐ辞めていたから、今度もどうせ辞めてしまうだろう」と思っているため、上司が育てないことがあります。すると、「予定の自己成就」といって、実際に結婚や出産で辞めやすくなってしまう。こういうことが実際に起こっているのですが、それを解消していくことが必要ではないでしょうか。
このような視点を踏まえて、実際に企業内で女性がしゃがまされている状況をどう思われますか。梅田さんは、とっておきのエピソードをお持ちとか……。
【梅田】はい。LGBTって、みなさんご存じですよね。Lはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシャル、Tはトランスジェンダーです。そのトランスジェンダーの人と最近仲良くなって、一緒にランチに行きました。その方は2年前に男性から女性に変わった方で、お仕事はうちの協力会社の管理職をなさっています。
彼女はトランスフォームしてから、2つ変わったことがあるそうです。1つは仕事のやり方、もう1つは道の歩き方です。
男性だった頃は仕事で、「お前はどうなんだ」と意見を求められていたのに、女性になったら意見を求められなくなった。でも中身は元のままで変わっていませんから、意見を言うと無視されるか、「女のくせに生意気だ」と言われるようになった、と。でもその代わり、「お願い」を聞いてもらえるようになったそうです(笑)。
【中野】それは……(笑)なんとも言えませんね。
【梅田】もう1つの変化は道の歩き方です。女性になって、やたらと道で女性にぶつかるようになったらしいのです。なんでだろうと考えてみたら、男性時代は女性が道を譲ってくれていたんだ、と思い当たった。女性は無意識に男性に道を譲っているということですね。なんだか納得してしまいました。
【中野】なかなか1人の人間が両方の性を経験することはないので、貴重な意見ですね。やっぱりジェンダーの問題は根深いものがあります。大隅さんは管理職として女性部下をご覧になることもあったと思いますが、実際の仕事の仕方などで、女性たちの抱える課題にはどんなことがあると思われますか。