2016年4月の女性活躍推進法施行直前、都内某所に100名近い企業の人事、ダイバーシティ担当者が集まりました。目的は2030実現のための有識者、企業間のタスク共有。ダイバーシティの目的は何か、どんなビジョンを描くのか――4名のパネリストによるディスカッションの様子をレポートします。

※この内容は2016年3月4日に開催された「日本企業にダイバーシティ経営は必要か?」(主催:株式会社チェンジウェーブ)でのパネルディスカッションを元に構成したものです。

【パネリスト】
入山章栄/早稲田大学ビジネススクール准教授
梅田恵/日本アイ・ビー・エム株式会社 人事 ダイバーシティー企画担当 部長

大隅聖子/株式会社永谷園 研究・開発本部 健康食品事業部 部長
中野円佳/チェンジウェーブ女性活用ジャーナリスト・研究者

【モデレーター】

佐々木裕子/チェンジウェーブ代表
(50音順、敬称略)

 
人物は左上から時計まわりに、中野円佳さん、梅田恵さん、入山章栄さん、大隅聖子さん、佐々木裕子さん。企業の人事、ダイバーシティ担当者が集まった会場は、2030に向けた各社の動向と有識者の知見を得ようと、熱気に包まれていた。

ダイバーシティを阻害する、日本特有の同質性偏重文化

【佐々木裕子(以下、佐々木)】入山章栄先生の基調講演で、ダイバーシティには「タスク型」「デモクラフィー型」の2種があり、「デモグラフィー型のダイバーシティによるリスク」や「タスク型のダイバーシティの徹底的な推進」という話がありました。日本IBMの梅田恵さんと、永谷園の大隅聖子さんのお二方は、実際にダイバーシティ推進の経験がおありですが、その点についてはいかがですか?

【大隅聖子(以下、大隅)】私がダイバーシティ推進に取り組んでいたのは前職であるローソン在職中で、永谷園に移ってからはお手伝い程度です。入山先生の話を聞いて、すごく腹落ちしました。というのも、自分が前職で実践していたのは、単に数値目標を掲げ、女性の管理職比率を上げていくような「デモグラフィー型」のダイバーシティだったのです。ダイバーシティの最終的な効果であるイノベーションを見据えながら推進していたかというと、こちらも正直言って反省があります。

一方で「企業にとってメリットがあるかどうか」は意識していました。国の施策だからやるのではなく、われわれの企業にどういうメリットがあるのかを考えながらやらないと、絶対にこの火は消えてしまうと思いがありましたから。

現在、私がいる永谷園は、消費財を扱うB to Cの会社です。商品購入の意思決定者も女性が多いので、ダイバーシティの成果が分かりやすいんです。代表的な例でいうと、カットキャベツを売り場で展開する時、男性が製造過程や安全性を気にしないのに対して、女性は添加物が入っていないか、子供が食べても安全か、などを非常に気にされます。そういう女性の視点を取り入れたところ、それだけで売り上げが大きく上がりました。

【佐々木】ダイバーシティを取り入れたことで、逆に社内に壁ができてしまったり、ハレーションが起きたりした経験はありますか?

【大隅】ローソンでは2000年からダイバーシティに取り組んでいましたが、ハレーションみたいなものはありました。女性を昇格させたけれど、まだまだぎこちないということもあります。そもそも女性管理職を増やすことについては、皆さん「総論賛成・各論反対」で、「それはひいきなんじゃないか」という方が多いのです。

でも私からすると、とにかく何十年も遅れているわけだから、せめて同じラインに来るまではひいきしてもいいじゃないかと思います。そのためにまず、「女性を積極的に教育するため、2年間だけ大目に見てください」と社内を説得しました。随分暴れたと思います(笑)。

【佐々木】そうだったんですね。それにしても、企業が随分投資しているにもかかわらず、日本でなかなかダイバーシティが進まないのはなぜでしょう。

【梅田恵(以下、梅田)】女性を男性のようにしようとしていたからではないでしょうか。日本人は同質性が高いし、皆が一生懸命、共通項を求めます。例えば、日本人同士が会議をすると、皆同じ前提に立っていることの確認から始まります。でも外国人が会議をする時は、お互い違うのが前提なので、まず同じゴールを持てるかどうかから議論します。それくらい日本社会では、皆が同じであることが当たり前なんですね。