直販がもたらすコスト削減

直接販売のメリットは、現場に密着することで顧客が喉から手が出るほど欲しい商品を開発販売できるようになるだけではありません。直接販売だからこそ費用を大幅に節約できるのです。

大きな効用が期待できる商品を製造する会社、例えば製薬会社や化粧品会社なども原価率が低く、粗利率が高いことで有名です。武田薬品工業の粗利率は70%前後、資生堂は粗利率75%前後もあります。しかしキーエンスと同様に付加価値の高い商品を世に出していても、それを開発したり売り出したりするために多額なコストをかけています。武田薬品工業の場合、新薬の開発には膨大なコストや年月がかかるため、研究開発費は実に売上の22%に上ります。また、化粧品は宣伝のためのコストや販売コスト、サンプル品にかかるコストなどが欠かせないため、資生堂の売出費(店頭での各種販促費用)と広告宣伝費は売上の23%も占めています。

一方、キーエンスは顧客の現場で生の声を聞きながら問題点を探り、解決案を探っていくため、研究開発に膨大なコストはかかりません。2015年3月期の研究開発費は売上の3%程度に止まっています。また、直接販売のため販売代理店への販売手数料といったコストがかかりません。一般消費者向けの商品を作っている訳ではないため、広告宣伝費もかかりません。例に挙げた企業と比べて、キーエンスが開発費や売出費をかけなくても済むのは直接販売による恩恵と言えます。キーエンスの販売費および一般管理費では、役員および社員の人件費と研究開発費が全体の6割以上を占め、それ以外に目立って大きな費目はないのです。