B to B直販の効果を最大限に生かす

粗利率が80%と極めて高いことに加え、販売管理費では人件費以外にはさほどお金をかけていないため、キーエンスでは営業利益率52%超という驚異的な水準を達成しているのです。

連載第15回「年収1300万円の働きマンと年収600万円のお休みマン、選ぶならどちら?」で、「年間休日140日、残業禁止、それでも社員には地域水準で最も高い給料を支払い、かつ優秀な経営成績を維持する優良企業」として紹介した未来工業も、キーエンスと同じく、B to Bで直接販売を行うメーカーです。しかしその未来工業をしても、粗利率は37%程度、営業利益率は12%程度です (未来工業株式会社 第50期 有価証券報告書より)。両社の強みや魅力は別のところにあるため、一概に比較はできませんが、それにしてもキーエンスの収益力の高さには目を見張るものがあります。

このようにB to Bで直接販売をしている会社は少なくありませんが、その中でキーエンスだけ飛び抜けて利益率が高いのは、顧客ニーズをくんだ上で「世界初・業界初」を誇る数々の商品を販売しているからだと考えられます。

なお、キーエンスは直接販売制度を活かしてその効果を最大限享受できていますが、全ての会社が同じようにできる訳ではありません。顧客数が比較的少なく注文高が多額の場合は、直接販売で対応できますが、顧客が不特定多数に上り個々の売上単価が少ない場合は、労力や手間のかかる直接販売よりも、卸売店や小売店に委ねた方が賢明です。

以上、今回はキーエンスの類まれなる収益力の背景にある高い商品開発力や直販制度、コスト削減などについてお伝えしました。次回は役員報酬、配当金、税金といった観点から企業体質に迫ります。

※次回は、2016年4月14日(木)公開予定です。

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秦 美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業など、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。