退職金もなく将来の不安が募る

「私と主人の老後がこれからどうなるのかとても心配です。主人は商店主ですから国民年金で退職金もありませんからね」

夫婦の将来の生活にこう危惧を抱くのは、東京・江東区に住み、ホームヘルパーの仕事を始めて1年目の林5月さん(仮名・61歳)だ。

夫は67歳、父親の精肉店を継いだ2代目。客は駅ビルの大手チェーンのミートショップに奪われ、店はスーパーの進出で寂れる一方の商店街の一角にあり、売り上げは減少の一途だ。

月の世帯収入は夫の年金6万1000円と林さんの年金7万円とヘルパー代、姑の年金3万3000円、それに店の利益を合わせた42万7000円になる。

収入が多そうに見えるが、姑の介護施設への支払いはつい最近まで月17万円にものぼり、少し減ったとはいえ今でも13万円近くが必要だ。とても姑の年金で足りる額ではないし、夫の退職金もゼロ。シャッター商店街にある商売の先細りは目に見えており、子ども2人は独立しているとはいえ将来の不安は募るばかりだという。

高校卒業後、都市銀行に5年間勤務した林さんは見合い結婚で寿退社。夫の家業を手伝っていたが、店の売り上げ減少もあって30代半ばで鉄鋼商社に入り9年間勤め、会社の吸収合併で退社。次に鋼管パイプの商社に17年間勤務したものの最悪の結末だった。経営幹部のパワーハラスメントで2年前、懲戒解雇のリストラにあった。

「上司からいわれのない文句をつけられたうえ、でたらめな理由で解雇通告を受けました。懲戒解雇なら退職金を払わなくて済むという狙いもあったんでしょう」

会社の横暴な処分に対抗するため労働組合東京ユニオンに駆け込み、労働委員会へ解雇撤回の申し立てを行った。その結果、8カ月後に会社が全面的に非を認め、未払い分の給料と退職金150万円の支払いを勝ち取った。