前向きな視点を与えるミラクル・クエスチョン
先ほどの会話例の続きで、リーダーがAさんを力づけるような質問をしたら、何が起こるでしょうか?
リーダー:それじゃあ、逆にこれまででうまくいった点や、できていることって何だろう?【肯定的な質問】
A:X社からの要望については、それぞれクリアしてきたと思います。それと、こうやって何度も対応していること自体は真面目に取り組んでいると評価されているのではないかと思います。
リーダー:これからX社に対応していく時に、ほかのメンバーや私はどういうふうに関わればいいかな? 何か手伝えそうなことはある?【支援的な質問】
A:そうですね……来週また資料を持参するのですが、その前に資料や説明する内容について見てもらって、想定問答ができたら助かります。そうすれば資料や説明の不足点が事前に分かると思います。
リーダー:これから先、AさんはX社とはどうやって付き合っていきたい?【未来視点の質問】
A:今は大変ですけど、きちんと認められて、受注に繋げたいです。
リーダー:もし今X社との間にある問題が一瞬でなくなって、すべてがうまくいったらどんなことが起こると思う?【ミラクル・クエスチョン】
A:きっと、お互いの意思疎通がもっと楽になると思います。先方が考えていることや気になっていることを私がしっかりと聞けていて、こちらも伝えたいことをきちんと伝えられる関係になれるのではないでしょうか。
リーダー:もしそういう理想的な関係が築けていたら、Aさんと先方のやり取りはどうなっているだろう? 具体的にイメージできることはある?【ミラクル・クエスチョン】
A:もしそうなっていたら、どうして今のようにいろいろと違うことを言われるのか、その背景や理由について聞けるんじゃないでしょうか。ざっくばらんに、何がネックになっているのかを聞ければ、さらにいい関係が築けるように思います。
リーダーはさまざまな力を与える質問をしています。その中で後半の2つの質問は“ミラクル・クエスチョン”と呼ばれる、未来における理想的な状態を問う質問です。ここではすべての前提条件がなくなった状態について尋ね、さらにその理想的な状態を具体的にイメージできるように質問を重ねました。こうして、袋小路に入り込んでしまった人にまったく異なる観点から問題について考えてもらうことで、解決を促すのです。こうした視点や質問は、他人だけでなく自分に問いかける際にも有効です。何かにつまずいた時、もしくはチームメンバーがつまずいている時には、力を与える質問を使って乗り切りましょう。
日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。