いくら考えても答えが出ない難問に悩むチームメンバーに対して、あなたなら何と声をかけますか? もし相手を責めるのではなく、力づけたいと思うのであれば、試してほしい方法があります。それが「ミラクル・クエスチョン」です。

悩める相手には質問を選んで

もし目の前にいる人が何かの問題について悩んでいるとしたら、あなたはどんな質問を投げかけますか?

原因がまったく分からず、「正直、考えても無駄!」と言いたくなるような問題。投げ出したくもなりますが、立ち向かわなければなりません。そんな問題に悩める人に対して、行うべき質問とは?

私たちは常日頃、問題解決のために何が問題で、その原因はどこにあるかという点を知ろうとします。その際、問題を把握しようとして過去のことにばかり注意を向けてしまいがちです。しかし、問題が特定され、その原因が分かったとしても解決につながるとは限りません。逆に問題を理解しようとするあまり疲れてしまったり、詳細な情報に入り込みすぎて解決の糸口を見失ってしまったりすることもあります。こうした時、相手を助けようとして問題の具体的な状況を問い詰めたり、解決策やアドバイスを押し付けたりしても状況はよくなりません。

例えば、「問題解決のために何が問題で、その原因はどこにあるかという点」について、十分に振り返りや検証を行っているにもかかわらず、まるで解決のヒントが見当たらない、いわば“袋小路”に陥っている場合、むしろ必要となるのは、相手を力づける質問、つまり肯定的かつ支援的で、過去ではなく未来について問うような質問です。逆に、否定的で相手を責めるような口調の、過去ばかり問うような質問は相手の力をそぎ、やる気を失わせてしまいます。では、具体的にはどのような質問が人を力づけるのでしょうか?

三要素をそろえることで効力を発揮

相手を力づける質問は、大きく3つの要素で成り立っています。その3要素とは、(1)肯定的、(2)支援的、そして(3)未来視点です。まず、1つめの肯定的であるとは、相手の発言内容や意見を否定しないことであり、できていない点よりも既にできている点に焦点を合わせるような質問です。例えば、「なぜできなかったのか?」や「何がうまくいかなかったのか?」というように過去のできていない部分を確認してしまうと、相手を責めるような口調になりがちです。そこで、「できている部分はどこか?」「うまくいっている部分はどこか?」とポジティブな面に着目することが重要になります。

2つ目の要素は、支援的であることです。支援的な質問とは、相手を責めたり突き放したりせず、一緒に問題を解決しようとする質問です。例えば、何か問題が起こった時に「(あなたは)何をしたのか?」「(あなたは)なぜそうしたのか?」と相手の行動ばかりを聞くと、必然的に責め立てるような印象を与えてしまいます。責められたと感じたら多くの人はモチベーションが下がってしまうのではないでしょうか。大事なのは、質問が個人攻撃にならないように、自分も一緒に考えていると伝わるような質問をすることです。例えば、「(私たちは)どうすればよいか?」と主語を変えてみたり、「あなたがそうしてしまったのは、何が原因だったのだろうか?」と人ではなく原因に視点を当ててみたりすることが有効です。

3つ目の要素は、未来視点であることです。私たちは普段、現在や過去についてばかり質問してしまいがちですが、その視点を未来へ向けることで新しい発想を思い浮かべられます。逆に、終わってしまったことや現在の変えようのない事実について質問しても、問題は解決されませんし、状況はいっこうに改善しません。「なぜ○○をしなかったんだ?」と問いかけるのではなく、「これからどうしたらよいだろうか?」と未来に視点を向けた問いかけを行うことで、相手の意欲をそがずに建設的な話し合いができるようになります。

ここで重要なのは、力を与えるような質問をするためにはこれら3つの要素いずれもが重要だということです。たとえ肯定的で未来に焦点を合わせていても、相手を突き放したような質問ではやる気を失ってしまいます。そして、こうした質問というのは言葉でどのように伝えているかという点も重要ですが、その質問をどういった表情やトーンで伝えているかも大事になってきます<参考記事:リーダーは要注意! 「間違った問いかけ」で部下を追い詰めてはいませんか?(http://woman.president.jp/articles/-/724)。

一筋縄ではいかない問題に悩む人には何が必要?

相手を力づける質問は、実際にはどのように使えるのでしょうか。会話例と共に見ていきましょう。今回の例は「チームメンバーのAさんが取引先とのやり取りで困っている」と聞いたリーダーが、Aさんの状況を尋ねるところからスタートします。

リーダー:Aさん、最近X社とのやり取りはどう? 何か困っていることはある?
A:はい、実はそのことでご相談したくて。ここ最近、何度も提案書を持参しているのですが、全然話が進んでいないのです。それで、どうしたらいいか困っています。
リーダー:なるほど、何度も通っているけど進展がないのだね。それはどうしてなのかな?
A:それがなぜなのかよく分からないのです……
リーダー:先方からはどんなことを言われているの?
A:それが毎回違うことを言われていて。大筋では商品を購入したいとは言ってくれているのですが、なかなか具体的な話に進みません。
リーダー:煮詰まっているみたいだね。これまでどんなふうに対応してきたの?
A:はい、X社からの要望には都度対応するようにしています。でも、言われたポイントについてクリアしているのに違うことを言われたり、以前説明した点についてもう1度説明してくれと言われたりするのです。

Aさんは確かに取引先とのやり取りで悩んでいるようです。本当の問題が何か分からないまま、翻弄されているようにも見えます。こうした時、過去や現在の状況を聞くだけでは何も分からず、状況は解決に向かないかもしれません。このように袋小路に迷い込んでいる時こそ、力を与える質問が必要なのです。

前向きな視点を与えるミラクル・クエスチョン

先ほどの会話例の続きで、リーダーがAさんを力づけるような質問をしたら、何が起こるでしょうか?

リーダー:それじゃあ、逆にこれまででうまくいった点や、できていることって何だろう?【肯定的な質問】
A:X社からの要望については、それぞれクリアしてきたと思います。それと、こうやって何度も対応していること自体は真面目に取り組んでいると評価されているのではないかと思います。
リーダー:これからX社に対応していく時に、ほかのメンバーや私はどういうふうに関わればいいかな? 何か手伝えそうなことはある?【支援的な質問】
A:そうですね……来週また資料を持参するのですが、その前に資料や説明する内容について見てもらって、想定問答ができたら助かります。そうすれば資料や説明の不足点が事前に分かると思います。
リーダー:これから先、AさんはX社とはどうやって付き合っていきたい?【未来視点の質問】
A:今は大変ですけど、きちんと認められて、受注に繋げたいです。
リーダー:もし今X社との間にある問題が一瞬でなくなって、すべてがうまくいったらどんなことが起こると思う?【ミラクル・クエスチョン】
A:きっと、お互いの意思疎通がもっと楽になると思います。先方が考えていることや気になっていることを私がしっかりと聞けていて、こちらも伝えたいことをきちんと伝えられる関係になれるのではないでしょうか。
リーダー:もしそういう理想的な関係が築けていたら、Aさんと先方のやり取りはどうなっているだろう? 具体的にイメージできることはある?【ミラクル・クエスチョン】
A:もしそうなっていたら、どうして今のようにいろいろと違うことを言われるのか、その背景や理由について聞けるんじゃないでしょうか。ざっくばらんに、何がネックになっているのかを聞ければ、さらにいい関係が築けるように思います。

リーダーはさまざまな力を与える質問をしています。その中で後半の2つの質問は“ミラクル・クエスチョン”と呼ばれる、未来における理想的な状態を問う質問です。ここではすべての前提条件がなくなった状態について尋ね、さらにその理想的な状態を具体的にイメージできるように質問を重ねました。こうして、袋小路に入り込んでしまった人にまったく異なる観点から問題について考えてもらうことで、解決を促すのです。こうした視点や質問は、他人だけでなく自分に問いかける際にも有効です。何かにつまずいた時、もしくはチームメンバーがつまずいている時には、力を与える質問を使って乗り切りましょう。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。