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資生堂には全国に1万人の「美容部員」と呼ばれる女性社員がおり、このうち約1100人が時短制度を利用。美容部員には1日あたり18人以上接客するという営業ノルマが課せられている。

現状、時短は「女性社員が取るものでしょ?」との無邪気な声もあるくらい、女性が子育てするための制度だと思われている。本来は男性社員も対象とした、“育児と「介護」のための勤務時間の短縮“制度であることが忘れられがちだ。現代日本における時短勤務は、日本的な、あれもこれも期待される女性ならではのソリューションとして機能してしまっている。だから女性社員率8割の資生堂が他に先駆けてこの問題に対応することになったのであって、「それが当然」と女性に育児も介護もさせる文化が変わらないと解決しない。

また、夫婦の間で妻側が時短を取るのが当然視されるような現在の状況では、結果的に夫の勤める企業が妻の企業のリソースを奪っているのではないかという指摘もある。これまでは子育て支援策を拡充することが企業イメージを上げるというメリットがあったため、そこは問われてこなかったが、実は家庭内で擬似的な「企業リソースの奪い合い」が行われているという指摘は、非常に的を射ている。

ダイバーシティとは「専業主婦を囲った平均的な男性労働者」という昭和モデルを更新するもの。育児も介護も、現代は女性だけでなく男性にも平等に降りかかってくる問題であり、男性も当然当事者なのだ。この資生堂ショックは「時短の甘えを正す」などという狭い女性間の二項対立で語るのでなく、いま「女性の働き続けやすさ」を確保しつつある私たちの社会が次に進むべき、ダイバーシティの上位議論の扉を開けたのだと認識したい。

■参考
NHKニュース おはよう日本:“資生堂ショック” 改革のねらいとは
http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2015/11/1109.html
河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。