たかがネクタイ、されどネクタイ。侮るなかれ。一流の人は色を巧みに使い分けて、したたかにメッセージを刷り込んでいるのだ。

トップエリートは色も戦略のうち

心理学的見地を踏まえたファッションの指導をしてきた私の考えでは、おしゃれは自分のためにするものですが、身だしなみは相手のためにするものです。

ですから、「人間は中身で勝負」と、外見に気を使わないことを、まるで誇りのように語る人を見るたびに残念な気持ちになります。

しかし、ファッションを意識する人と、無頓着な人とでは、生涯年収に何千万円もの違いが出るとしても、その人は主張を変えないでしょうか。

米国の労働経済学者であるダニエル・ハマーメッシュ教授が7000人を対象に行った調査では、単なる美醜ではなく、その人が周りに与える好感度が重要であることがわかりました。このとき、見た目を整えることで平均以上の評価を受けている人は、平均以下の人と比べて、生涯年収が3000万円も多いという驚きの事実が判明したのです。

見た目を気にする日本のビジネスマンはまだ多くありません。しかし、世界のトップエリートたちは、見た目が相手に与える印象を巧みにコントロールしようとしています。

たとえば、次期大統領選挙への出馬を表明したヒラリー・クリントン氏。彼女は2008年の大統領選ではバラク・オバマ氏と戦いました。選挙戦の序盤、知名度で圧倒的優位に立っていた頃、彼女は黒のパンツスーツ姿で人々の前に立ちました。黒は、威厳やプロフェッショナル、高級といった印象を与える色です。「私は男性候補と対等に戦える強い女だ」という意思が込められていたのでしょう。

ところが、オバマ氏が勢いを増し、形勢が逆転してくると、ファッション戦略を転換し、赤、黄色、ロイヤルブルーなどの鮮やかな色を投入して女性らしさをアピール、巻き返しを図ったのです。結果からいえば、時すでに遅しではありましたが、色彩を重視していたことがわかります。

今回の大統領選挙への立候補を表明した動画においても、彼女はぱっと目を引くような赤い色を取り入れていますし、このほかにもブルーグリーンなどの明るい色を採用しています。黒一色で始まった前回とは、違った戦い方を見せてくれることでしょう。

服を制して選挙を制す! ヒラリー・クリントンの色彩戦略 
左は2008年の大統領選出馬時によく着ていた黒のスーツ(07年12月16日撮影)。右は15年4月に大統領選出馬表明後まもなく、ニューハンプシャー州で遊説した際の服。(写真=ロイター/AFLO)

さて、日本のビジネスマンが、ファッションを意識するならどうすればいいのでしょうか。スーツスタイルにおいて、もっとも重要なことはVゾーン、特にネクタイに気を使うことです。グレーや紺のスーツ、白のワイシャツが基本のビジネスマンにとっては、ネクタイの色を変えるだけで、大きな変化をつけることができます。ビジネスマンにとっても、やはりカギを握っているのは色なのです。