プロのサービスマンを発奮させる

ところで、先に阿部さんが話した外国人夫妻であるが、実は店の予約をせずに来日してきたという。ミシュランの星付きの店は、1カ月以上前には予約をしないと席を取るのが難しい。阿部さんが店に電話をしてみると、やはり満席。それを伝えたときの2人の落胆ぶりたるや、見ていられないほどだった。

そこで阿部さんは、「“できません”で済ませるわけにはいかない」と闘志を燃やした。客にさまざまな店を提案できるよう、阿部さんはプライベートで食べ歩きをしているのだが、その店も一度食事に行って、女将さんと名刺交換をしたことがあった。そこで今度は直接女将さんに事情を話して頼み込むと、「阿部さんがそこまで言うなら」と席を用意してくれた。

こうした熱血コンシェルジュである阿部さんを気に入り、彼の転職に伴って利用するホテルを替える顧客も多いという。阿部さんは彼らの好みや趣向を手帳に記して、常に携帯している。その中の一人が、阿部さんがコンラッドに移ってすぐに宿泊を予約してくれた。白い花が好きな客だったので、阿部さんは白い百合を一輪、ウェルカムボードと共に部屋に飾っておいた。するとその客がチェックアウトした翌日、ホテルで用意した小さなクマのぬいぐるみと百合を並べて自宅に飾ってある写真がメールで送られてきたという。

「時間と手間をかけて、こんな素敵なメールを送ってくださったお客様の気持ちを思うと、涙が出ました」

こうして世界のセレブを日々見続けているコンシェルジュたちに「記憶に残る素敵な客」について尋ねてみると、返ってきたのはほとんどが外国人客のエピソードだった。それもそのはず、コンラッドの阿部さんによると、コンシェルジュを利用するのは95%が外国人だという。

外国人はコンシェルジュを使い慣れていて、滞在中は何でも相談をして、旅を楽しむ。そうして、自分から何かを見つけ出そうという意識が、プロのサービスマンたちをやる気にさせ、燃えさせるのである。コンシェルジュたちといい関係が築ければ、ホテルでの滞在はぐっと楽しく快適なものになる。われわれ日本人も見習いたいものだ。

(澁谷高晴=撮影)
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