財産はそのままで、収入と年金がある

将来、夫婦にどういう事態が訪れるかわからない以上、壮年・熟年の夫婦が離婚を考えるなら、財産分与や住居、介護、最低限の法的・制度的なことはあらかじめしっかりと試算し、認識しておく必要がある。年金の離婚分割制度を含めて、計算と計画は家庭運営の基本だからだ。

「繰り返しますが、離婚したら“2人とも”貧乏になりがち。妻が40代の場合、婚姻期間は20年に満たないわけですし、当面の生活にも年金は関係ありません。そもそも支払われるのは65歳から。それまでの20~25年間はそれすらない。年金だけではなく、50代なら住居費や慰謝料、財産分与などの問題があり、40代なら子どもの養育費もあります。その全体像をみてポイントを押さえ、各々の要点を知っておく必要があるのです」(ファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏)

もし離婚しなければ、財産はそのままで、さらに夫婦の収入と年金がある。しかし、離婚すれば家も光熱費も食事も、何もかもが別々の出費になるため、単純に夫婦で蓄財を分割しても非効率きわまりない。仮に妻が夫の年金の半分を押さえられたところで、目の前の生活経済は満たされない。それぞれの生活が成り立たなくなる恐れがあるからだ。

熟年前後の夫や妻は、離婚を考えた時点で財産や慰謝料、試算した年金額や他のリスクをあぶり出し、カネに換算できない側面も改めて思い起こしたうえで、いま一度、自分自身の「来し方、行く末」をよくよく考えたほうがよいのかもしれない。別れれば「独り身の自由」が手に入る半面、自由の内実が生活を支える経済に影響されるという現実もある。甘くはないということだ。