厚労省の指導が一層厳しく
企業サイドもリスクとして真剣にマタハラに対処するべきときが来ています。厚労省からの通達で、企業へのマタハラ指導が強化されたからです。
「働く女性が妊娠・出産を理由に退職を迫られたりするマタニティーハラスメント(マタハラ)が疑われるケースについて、厚生労働省は22日、雇用主への指導を強めることを決めた。妊娠や出産と、降格、解雇などの不利益な取り扱いを受けた時期が近接していれば、原則として因果関係があるとみなし、雇用主に報告を求めることなどを検討する」(http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=64568)
以前より厳しくなったのは「改正後は「妊娠、出産を契機とした不利益な取り扱い」との表現を加え、時間的に近接していれば、違法性が疑われると判断される」の部分です。今までは「不当な解雇や降格」と雇用者が訴えても「妊娠が理由ではない。能力不足」などと言い訳ができたのですが、今度からは「時間的に近接している」だけで「マタハラ」とみなされるわけです。
こうなると、企業サイドも一刻も早く社員への周知徹底、研修などを行わないわけにはいきません。すでに昨年10月23日に「マタハラ訴訟で最高裁弁論 妊娠理由に違法な降格」という判例も出ています。厚労省もマタハラ被害への本格的な調査に乗り出します。連合の調査では「4人に1人」がマタハラの被害者でした。(連合によるインターネット調査 ■実施期間:2014年5月27日~5月29日 ■母集団:全国在住の現在在職中の20代~40代の女性634名)
万が一、被雇用者である女性と裁判になったり、ネットなどで情報が拡散されるだけでも、「女性の活躍推進」が政府の方針である今、企業イメージへのダメージがあるでしょう。
セクハラに対しては、ここ20年で格段の認知度、対応度があがりました。自分が社会に出たばかりの頃と比べると格段の差です。その要因は企業サイドの努力にあります。マタハラに対しても同じように敏感に対処する時でしょう。
しかしセクハラに関しては検索すればすぐに厚労省や法務省の政府のガイドラインがあります。しかしマタハラのガイドラインはどこにあるのか?
探してみても「連合」の「働くみんなのマタハラ手帳」はあるのですが、厚労省のものはありません。
マタハラのガイドラインに相当するらしきものは、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」が正式名称となっています。これではなかなか探すことができません。また文章も非常にわかりにくいものです。
厚労省が1月23日に「働く女性の処遇改善プラン」(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000071721.html)を発表しています。この中にも「セクシュアルハラスメント・妊娠出産等による不利益取扱いが起こらない職場環境づくりの推進」という文言がちゃんと入っています。それに応えて企業の方も敏感に対応しなくてはいけない。何かあってからでは遅いですから。
厚労省によって、わかりやすく、職場の実用に適したガイドラインが近々作られると期待しています。マタハラについても、早急に「セクハラ」並みの環境整備が必要とされています。
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)。