ゴルフはデータ利用が最も遅れているスポーツの一つと言われてきましたが、それも様変わりしつつあります。データアナリストを帯同するツアープロもアメリカでは増えてきました。今シーズンから統計学者をチームに迎えたビリー・ホーシェルは、フェデックスカップで優勝しています。具体的にはどのようなデータ分析が行われているのでしょうか。たとえばアメリカPGAツアーでは平均パット数ではなくSGP(Strokes Gained Putting)という指標を使っています。これは「ある距離からホールアウトするまでのツアー平均パット数から自分のパット数を引いた数字」です。このSGPを見れば一流選手のスコア差へのパッティング貢献度は15%前後であり、8フィートから1パットでホールアウトする確率はPGAツアー選手でも50%、といったことがわかります。ティーショット、アプローチなどあらゆるショットにも応用がきくこのSG指標を開発したコロンビア大学ビジネススクール、マーク・ブローディ教授の著書より抜粋してお届けします。

データ分析でゴルフは絶対うまくなる!

私は長い間、多くのゴルファーと同じくフェアウェイキープ、パーオン、パット数といった昔ながらの指標をスコアカードで記録していた。ラウンド後に見直したらそれでおしまい。スコアカードから得られるこれらの指標を見ても、スコアが良かった理由や悪かった理由はよくわからなかったのだ。

昔ながらの指標は自分のプレーを理解するのにほとんど役立たないだけでなく、スコアを10打縮めるにはどのショットを練習すればいいか、ドライビングディスタンスが20ヤード伸びればスコアがどれだけ縮まるか、パットは強く打って曲がる前にねじ込むほうがいいのか、それとも曲がりを大きく計算してジャストタッチで狙えばいいのか、といった興味深い疑問に答えることもできなかった。

私の著書『ゴルフ データ革命』はこうした疑問に応えるべく長年研究を重ねた成果であり、財務リスクの評価および管理の専門家として使っている数学的手法を取り入れている。ゴルフというゲームの分析にこれほど時間がかかるとは思っていなかったが、ひとつの疑問に答えるたびに新たに興味深い疑問が生まれるため、その分析に時間がかかった。

それぞれのショットをどこからどこまで打ったかという、ここ数年でようやく手に入るようになった細かいショット情報がなければ、本書で紹介している分析結果は得られなかった。一部のデータは《ゴルフメトリクス》というプログラムを使って、主にアマチュアの細かなショットデータを自分で集め、分析する必要があった。2003年からPGAツアーの試合で集められた《ショットリンク》データのおかげで、プロのプレーに関する膨大な情報が手に入るようになった。2007年以降、データを学術研究者に公開するという英断を下したPGAツアーの方々には深く感謝する。とはいえ、データを正しく分析する方法はまったくわかっていなかった。

すぐに、ゴルフのプレーを測定するには、比較できないと思われていたさまざまなショットを比べる必要があることが明らかになった。ティーショットを飛ばしてフェアウェイセンターをとらえるには、筋力とタイミングが必要である。チップショットを打つには、ボールを正確にミートして思い通りの距離を出す必要がある。20フィートの下りのスネークラインのパットを決めるには、グリーンを読む技術とパッティングのタッチが必要である。ゴルフの魅力のひとつはさまざまな技量が要求されることだが、そのことが同時に、さまざまなショットの重要性を相対的に測定するのを難しくしている。