リンカーンもケネディも「外見力」で勝利

歴史をさかのぼれば、1860年の大統領選挙で、エイブラハム・リンカーンはニューヨーク州のグレースちゃんという11歳の少女の手紙の「ひげがあるほうが立派に見えます」という助言に従ってほおひげを生やし、僅差の選挙を制した。

また、1960年の大統領選挙では、史上初めての候補者テレビ討論会が行われたが、プロによるメーキャップを施し、健康的に外見を整えたケネディが、痩せて顔色が悪かったニクソンよりもはるかに優勢に見えた。やはり僅差の選挙戦となったが、この討論会の印象は最後までついてまわり、ケネディに勝利をもたらしたと言われている。

興味深いのは、この討論会をラジオで聞いた人々は、ニクソンのほうが優勢だと思ったことだ。

ただ、これだけではたまたま偶然の「都市伝説」の域を出ないと考える向きもいるだろう。

しかし、2005年『サイエンス』誌に掲載された、プリンストン大学のトドロフ博士らの研究は衝撃的だ。ここでは、被験者たち(学生など)は2枚ひと組の写真を次々見せられ、「どちらの人物が、より有能か?」という質問に答えた。

写真は、すべて民主党と共和党の国会議員候補のものだった。2枚の写真を見て、左側の人物のほうが有能そうだと感じたなら、被験者たちと同じ感覚を持っているということだ。そして左側の人物は実際に2004年の選挙で、右側の対立候補に勝利した。

学生たちは熟考したわけではなく、ほんの一瞬の印象で有能そうかどうかを決めた。その結果、有能と評価された方の候補者の72%が実際に当選していたという。これなら、政治評論家の予測など必要ないと思えてくる。

立候補者の何カ月、何年にわたる選挙活動も、一瞬の見た目が有能そうかどうかでムダになってしまうとしたら、選挙そのものを考え直したくなってくるというものだ。