実名で「自分も被害者」と書く危険
すべてのパスワードを覚えるのは難しい。私も利用するサービスによって管理方法を分けているが、決済情報を登録していないサービスでも使い回しは危険だ。銀行や証券、カード関連は特に慎重に管理し、覚えきれなければパスワード管理アプリを利用するのも手だ。
ここまではある意味一般的な対策を語ったが、私が真に気を付けなければいけないと考えているのは現実世界、とりわけSNSにおける自分の振る舞いである。
タイムズカーの情報漏洩が発覚した後、新聞各社がXに投稿したそのニュースに、ある実名アカウントの方が「自分の個人情報を勝手にバラまいて、絶対にタイムズは許せない」と返信していた。つい私は「それ大丈夫か?」と声を漏らしてしまった。怒る気持ちはもっともだが、その書き込み自体が新たなリスクを生みかねないからだ。
考えてみてほしい。多くの場合、流出したデータには氏名と住所がセットで含まれている。実名のアカウントで「自分も被害者だ」と名乗れば、データを手にした者は名前で突き合わせるだけで、そのアカウントの持ち主がどこに住んでいるかを知ることができる。
旅行の投稿は帰宅してから
個人情報が流出している人物が実名アカウントで旅行や出張の様子をポストしていたら、「いつでも空き巣に来てください」と言っているようなものではないだろうか? 仮にハッカーが海外に住んでいたとしても、日本に拠点をもつ犯罪グループに情報を売る恐れもある。
SNSへの投稿は、既に情報が漏れている前提で行うべきだろう。その際は「犯罪者に見られても大丈夫か?」という観点を常に意識する必要があると思う。具体的には、旅行や出張など長期間家を留守にする情報はSNSには公開せず、帰宅してからポストする。現実と紐づいているアカウントでは、高額なコレクションや資産の話はしない。自宅の外観や窓からの景色など、住んでいる場所の手がかりになる写真は載せない。SNSは専用のメールアドレスで登録し、流出した情報とSNSが紐づかないようにする。被害への怒りを書き込むなら、実名と結びつかないアカウントで行う……などだ。
個人情報の流出で本当に警戒すべきなのは、盗まれた情報が単独で悪用されることだけではない。氏名や住所、生年月日といった流出データに、SNSで公開している勤務先、家族構成、旅行の予定、資産に関する情報などが結びつけば、犯罪者は一人ひとりの生活をより詳しく把握できるようになる。
情報が漏れること自体は防げなくても、そこに新たな情報を与えないことはできる。SNSで何かを投稿する前に、その情報が流出データと組み合わされたら何が分かるのか、一度考える習慣を持ちたい。

