コストは数十万円程度、1人で操作可能

ドローン(drone)は、巣の周りを飛び回り、ブンブンという音を立てる昆虫の一種の「雄蜂おすばち」を意味した。今日では人工的な雄蜂をドローンと称している。広義では無人機(航空・水上・水中・車両)のすべてをドローンと呼ぶ傾向だが、本書では無人航空機のことをドローンと称する。

戦場の様相を一変させた根源的な原因は、FPVドローンの登場であり、進歩であり、大量使用だった。ウクライナ戦争で急速に普及したのは、小型で安価なクアッドコプター型――ローター(回転翼)が4カ所あるタイプ――で、これが自爆攻撃に多用された。

FPVドローンとは、ドローンを操縦する者(前線の兵士など)が、専用のゴーグルを装着し、ドローンに搭載されているカメラから得られる情報資料(インフォメーション)をリアルタイムで受信し、コクピットに座っているパイロット感覚で機体を操縦するシステムのことだ。

クアッドコプター型であれば、費用も数十万円程度で調達でき、整備の必要がない「使い捨て」感覚で利用できる。操作も歩兵一人がノートPCで可能だ。つまり、最前線の小さな歩兵分隊でも、敵戦車を撃破できるだけの独立戦力としての機能を発揮できる。戦場の常識がくつがえったのだ。

費用対効果に圧倒的に有利な、FPVドローンが戦場の力学を決定的に書き換え、彼我ともに動けない状況=膠着状態を作り出した。

「戦車不敗」の神話が崩れた

では、FPVドローンがなぜ戦場の力学を書き換えたのか、いくつかの視点から見てみよう。

従来、「最適な対戦車手段は戦車である」という戦車不敗の神話があった。

第2次世界大戦当時の戦車は、約700メートルの最大射程で敵戦車を撃破するために平均17発の弾薬が必要だった。第4次中東戦争(1973年10月)当時、1800メートルで敵戦車を撃破するためには、わずか2発の弾薬しか必要なくなっていた。

戦車の射撃には射距離の測定が決定的な影響を与える。第2次世界大戦当時の戦車は、戦車長が目測で射撃距離を判定した。第4次中東戦争当時の戦車は、測距儀、アナログ計算機、主砲弾薬技術が急速に向上し、戦車砲の精確な長距離射撃に画期的な優位性をもたらした。