「何を売らないか」を決めることも経営戦略
岡留のやり方は極端だが、「何を売らないか」を決めることも経営戦略だという点は普遍的である。短期の売り上げを捨ててでも、長期的なブランドの核を守る。その判断をどこで下すかがトップの仕事なのだろう。
逆に中村満のような広告主は、商品価値を理解したうえでその商品を支えた。媒体を変えるのではなく、媒体が媒体のままでいることに対して、広告主がカネを払う。理想的ではあるが、成立させるには編集側の強い境界線が必要になる。
経営者はしばしば「顧客第一」と言う。しかし顧客の要求をすべて受け入れれば、自社の商品価値そのものを失うことがある。『噂眞』にとっての商品価値は、「相手が誰でも書く」ことだった。だから、その価値を壊す広告は断る必要があった。
この問題は出版業界だけの特殊事情ではない。メーカーなら大口顧客、IT企業ならプラットフォーム、コンサル会社なら主要クライアントがある。売り上げを支える相手に不都合なことを言えるかという問題は、どの会社にもある。
そして弱点まで含めて開示することも大切だ。取次にだけは弱かったという事実を隠して「完全に自由な雑誌だった」と神話化すれば、経営には何も残らない。制約の中で自由の範囲を広げる。その現実的な努力こそ見るべきだ。
売り上げ目標を達成するために何でも受注する会社は、短期的には伸びても、長期的には「何の会社か」が曖昧になる。岡留が広告を選んだのは、自分たちが何の雑誌かを守るためだったと考えればわかりやすい。
その代わり別の広告市場と、熱心な読者・支援者を得た。理念を守ることと経営を続けることを両立させるには、精神論ではなく代替収益を作る必要がある。
会社の理念は、社是やスローガンより、実際に断った案件に表れる。何を受けないかを決めるとき、理念にはコストが発生する。岡留はそのコストを広告収入の放棄という形で払った。
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