14年間で6000万円の広告費を払った男

そんな雑誌を広告面で大きく支えた人物や会社がある。新刊を作るために話を聞いたビレッジセンター元社長の中村満も、その1人である。

『噂眞』の裏表紙には、雲の上のイエス・キリストがキーボードを持つ「VZ EDITOR」の広告が長年載っていた。中村は広告営業に口説かれたのではない。自分から編集部へ「広告を出したい」と持ちかけた。

1990年11月号から2004年の休刊まで14年間。広告費は別冊を含め6000万円以上だったという。しかも1年分をまとめて払っていた。岡留とは「お互いの会社のどちらかが辞めるまで、広告を続けよう」と約束していた。

雲の上のイエス・キリストがキーボードを持つ「VZ EDITOR」の広告。
雲の上のイエス・キリストがキーボードを持つ「VZ EDITOR」の広告。ビレッジセンターは裏表紙に広告を出し続けた。

なぜそこまで『噂眞』に入れ込んだのか。中村は元アマチュア・ボクサーで、アマチュア・ボクシング界の判定をめぐる不公正に強い不満を持っていた。1983年、『噂眞』がボクシング界の内幕を暴く記事を出した。当時のアマチュア・ボクシング界は、日本大学出身の川島五郎という人物が絶大な権力を持ち、連盟は日大出身者が役員を独占していた。試合が判定に持ち込まれると、日大生ばかりが勝つようになり、「日大判定」と言われていた。

最近でも、元日本ボクシング連盟会長・山根明の権力で、奈良県出身の選手への判定ばかりが有利になる「奈良判定」という不正が明るみに出て話題となった。が、日大の川島権勢は、山根の「奈良判定」が足元にも及ばぬほどだったという。

岡留編集長の死後にわかった真の執筆者

世界選手権、アジア大会、オリンピックなどの代表選手は、川島の意のままに選ばれていた。『噂真』の暴露記事のおかげで「日大判定」と「日大への不適切な配慮」が広く知れ渡り、アマチュア・ボクシング界がクリーンになった。その結果、84年のロサンゼルス五輪でも、川島五郎の息のかかっていない自衛隊体育学校(当時)の萩原千春が日本の代表に選ばれた。

この記事を読んだ中村は、自分たちが言いたくても言えなかったことを書いた雑誌に感激した。そして、広告主になることを申し出た。読者がスポンサーになったのである。

記事の署名は「本誌編集部」だったが、真の書き手がいたはずだった。あまりにもアマチュア・ボクシング界の内情に詳しかったからだ。自分が感激して読んだ記事の書き手が誰か、中村は長年知らなかった。岡留に聞いても教えてもらえない。岡留の死後、中村は、その書き手がノンフィクション作家の野村進だったと知った。わかるまでに何十年もかかったのだ。広告主にさえ取材の内側を簡単に見せない。そこにはスポンサーとの線引きがあった。

ビレッジセンターの中村満は例外的な広告主だった。広告を出す理由が「この雑誌の記事に救われたから」だった。アマチュア・ボクシング界の内幕記事を読み、自分たちが言えなかったことを書いた媒体を支えようとしたのだ。

失う権威がなかった『噂の眞相』は、だからこそタブーを恐れず何でも書けた。
失う権威がなかった『噂の眞相』は、だからこそタブーを恐れず何でも書けた。