AIを使うのに要注意な人

書籍を執筆する際、海原氏は自身のホームページなどを通じて「AIをどのように使っているか?」をテーマにしたアンケートへの協力を呼びかけた。

「すると、500人近くもの方が答えを寄せてくれて驚きました。しかもイエス・ノーといった簡単な答えではなく、自分がどのようにAIを使っているかという体験談をたくさん書いてくれていたのです。みなさんにとって関心があるテーマなんだなと思うと同時に、回答者のうちの約1割は心療内科医からみて、すでにAIを使うことによるリスクが高いと感じました」

心療内科医の海原純子氏
撮影=今井一詞
心療内科医の海原純子氏

海原氏は「特にAI以外に相談相手がいない人は要注意」と指摘する。

「AIと『閉じた関係』になるのが非常に危ないのです。AIは否定されにくく、いつでも応答してくれるため安心感を得やすい。その結果、これで十分だと感じて依存していき、本来必要であった受診を先送りにしてしまったり、自己理解の偏りが強化されたり、あるいは“人に話さなくても良い”と孤独を深めるリスクがあります。自殺念慮や病気の急な悪化のリスクの見逃しにつながります」

AIは「目的」「目標」、あるいは「悩み」に対する「方法を掲示すること」は得意だ。だが、「言葉以外のもの」「書かれていないもの」から何かを察知することはできない。

わかりやすい例を紹介しよう。

「人間VS AI」の人生相談回答編

例えば同書には、当初の企画案にあったように「人間(海原氏)VS AI」の人生相談回答編というユニークな試みがされている。次のような相談があったら、あなたならどう答えるだろうか。

(相談内容)
息子が幼い子どもを連れて実家に帰ってきた。普段は定年後の自分と妻の二人暮らしだったから単調な生活だったが、孫がいて遊んだりして楽しいし生活が充実した。ただ息子の子育てについて妻も自分も気になっていることがあり、意見を言うと、そんな時代じゃない、とか言われて険悪な雰囲気になる。なにも言わずにいたほうがいいのか、言うべきかまよっている。

これに対してAIの回答は、まずは相談者が感じる戸惑いへの共感、そして相談者の息子に対する具体的な声のかけ方を示し、最後は〈何も言わずに我慢する必要はありません。ただ、「教える」より「支える」、「正す」より「寄り添う」。その姿勢が、これからの穏やかな同居の鍵になるでしょう〉と結ばれ、模範的な回答である(実はざっと1200字程度書かれていて、ここで全てを抜粋するには長いので詳しくは同書を参照してほしい)。

一方で海原氏は、相談文を読んで「息子が2歳の子どもを連れて実家に帰ってきた」という事実の重さに目を向けた、という。息子の妻はどうしているのか、離婚か病気か、別の事情か。孫はそれをどのように受け止めているのか、養育にかかる経済的負担はどのように分担しているのか――。それらの疑問をもちつつ、自分なら回答文に次のような言葉を補う、と同書に記している。

ご相談文には明記されていませんが、息子さんがお一人で子育てを担っておられる場合、そのご負担やストレスが気になるところです。また、お孫さんへの影響についてご心配があれば、その点は子育ての方法とは別の次元の問題として、落ち着いて話し合う機会を持たれてもよいかもしれません