「簡単にできる」と言う責任

「簡単にできる」という“違い”を提供するブランドをマス市場で築くのであれば、プロしか扱えない製品を出してはいけません。さらに言えば、「標準的な理解力と標準的な調理環境」だけを前提にしたのでは不十分です。

勝沼依久『「味の素」の最強ブランディング』(朝日新聞出版)
勝沼依久『「味の素」の最強ブランディング』(朝日新聞出版)

「簡単に調理できる」ことを謳う以上、「それでもうまく使えない人」が存在する可能性まで想定する必要があります。そして、もしうまく使えない人が現れたなら、その人を例外と片づけるのではなく、「なぜうまくいかなかったのか」を徹底的に検証し、商品の改良や説明方法の見直しを行わなければなりません。

そこまで踏み込んで初めて、「簡単にできる」というブランドの約束が果たせるのです。

味の素では、先ほど紹介したようなお客様の声を、氷山の一角と捉えます。単に聞いて終わらせるのではなく、より多くの人が失敗なく調理を楽しめるようにするために、実際に作る場面の詳細なヒアリングを行いました。

家庭ごとの違いを想定したパッケージの表記

その結果、家庭ごとに、手順や火加減にばらつきがあることがわかりました。たとえば、次のような違いが、出来上がりの味に影響していたのです。

・豆腐はそのまま入れる場合もあれば、湯通ししてから入れる場合もある
・「中火」と説明があっても、強めの火加減で煮立たせてしまうことがある
・花椒粉を調理中に入れて加熱してしまうことがある

そこで、パッケージの調理方法(インストラクション)を見直すことにしました。

まず、「豆腐を加え……約3分煮立てる」という表記を、「豆腐を加え、約3分(豆腐を湯通しした場合は約1分)……軽く煮立てる」に変更しました。これにより、塩味が強いという不満件数は、次の表のとおり大きく減少しました。

【図表1】パッケージ記載の調理方法改訂による塩味不満件数の変化
出典=味の素資料より著者作成

さらに、花椒粉を入れるタイミングについても、「お好みで……ご使用ください」から、「お召し上がりの際に、お好みで……ご使用ください」へと変更しました。

こうした日々の対話の延長線上にこそ、味の素のブランディングの本質があります。お客様の声を活かした細かな修正の積み重ねが、「簡単にできる」というブランドの約束を支えているのです。

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