※本稿は、勝沼依久『「味の素」の最強ブランディング』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
自社に“技術”がなければ教われば良い
味の素は研究開発投資の規模として、日本の食品業界4位という位置を維持しています。そのため、あらゆる技術を開発する能力を持っていると思われるかもしれません。しかし、決してそうではありません。
食品技術と一言で言っても、和食もあれば、中華もあります。洋風スープもあれば、飲料もあります。新しい事業を始めようと考えても、“技術”という「攻め」の武器を持っていなければ、“違い”を作り出すことは困難です。
そこで味の素は、「自分で技術開発する」のと並行して、「教わる」という方法で、“技術”を手に入れてきました。ただ、漫然と教わりに行っても、大切な技術を教えてもらえるわけではありません。“技術”を得るためには、正しい「型」があります。
ここでは、企業から教わるときの「価値実装の型」と、プロの料理人から教わる「信頼の型」という2つの事例を取り上げます。前者は、外国で先に事業化を進めていた企業から技術を教わったコーヒー事業の事例。
後者は、顧客のニーズが多様化する中で、プロの料理人から本格技術を教わって開発した中華料理用調味料「Cook Do」の事例です。
年間70億円から530億円への急拡大
味の素がコーヒー事業を開始したのは、米国ゼネラルフーヅ(以下、GF社:現・モンデリーズ)と合弁で、味の素ゼネラルフーヅ(以下、AGF:現・味の素AGF)を設立した1973年に遡ります。当時、GF社は日本でインスタントコーヒー事業を開始していましたが、先発のネッスル日本(現・ネスレ日本)に押され、伸び悩んでいました。
そこで、GF社は味の素に共同事業を打診し、味の素もコーヒー事業が有望と考えていたこともあり、提携に至りました。
合弁事業というのは、双方のパートナーの役割分担が鍵になります。AGFの事業運営では、GF社がコーヒー製造に関する技術を担い、味の素は商品の販売を担当しました。この技術力と販売力の提携が功を奏し、合弁事業設立前に年間70億円程度だった売上は、翌年には150億円、7年後には530億円へと急拡大しました。
コーヒー事業の中心は、インスタントコーヒーです。インスタントコーヒーの製造では、コーヒー本来の風味を損なわずに乾燥させる技術が不可欠です。
先述のとおり味の素とGF社との合弁事業は、短期間のうちにコーヒー事業を数百億円規模の大きな柱に育てました。しかし、その基盤となった技術はすべて、GF社から導入したものです。
味の素がインスタントコーヒー事業に迅速に参入できたのは、自らが技術開発を行うのではなく、海外の技術を事業に活かすことができたためです。

