「第一線の料理人の味」を家庭で再現するために
「Cook Do」が発売された1978年当時、外食文化が一般家庭にも広がりつつありました。しかし家庭には、和食用の調味料しか常備されておらず、中華料理を自宅で作るのは容易ではありませんでした。
そうした中、味の素が注目したのは、登場して間もないレトルトパウチ技術でした。高温・短時間で殺菌しつつ、食品の品質劣化を抑えるこの新技術を研究し、「家庭でも本格的な中華料理を簡単に楽しめる商品を作れないか」と考え、「Cook Do」の開発がスタートしました。コンセプトは、「外食でしか味わえなかった本格中華を、おうちで手作りしよう」というものでした。
先発の丸美屋を追って「麻婆豆腐用」の「Cook Do」を発売したほか、当初より「回鍋肉用」「干焼蝦仁用」など、家庭にはあまり馴染みのなかったメニューの商品化に至りました。当時は、メニュー名の呼び方も知られていなかったため、カタカナでフリガナを添えるなど、メニューの浸透にも工夫が重ねられました。
最大の課題は、「第一線の料理人の味」を家庭用調味料で再現することでした。豆板醤や豆鼓などを組み合わせたレシピは、当時の味の素には馴染みのない技術です。味の素はその再現方法を、プロの料理人から「教わる」という選択に求めました。
鍋を振る回数まで数えた
実は、どのような形で教わったのかは公表されていません。しかし、研究者が料理人のもとに通い、試作品を何度も持参して改良を重ねていったことは想像に難くありません。
さらに味の素は、「第一線で活躍する料理人」が使う技術の再現に余念がありませんでした。たとえば、第一線で活躍する料理人は、頻繁に火加減を変えます。それを再現させたかった研究者たちは、火加減や鍋の振り方を記録し、解析しました。
当初は鍋を振る回数のような、単純な指標を真似ることから始まりました。現在では、炒める工程の温度変化をサーモグラフィで測定し、秒単位で解析することができます。複数台のカメラとAIを使い、素人との違いや、おいしさの決め手を可視化できるようになっています。
料理人の方から見れば、サーモグラフィで調理の様子を撮影されたり、鍋を振る回数まで数えられたりしては、料理に集中するどころではなかったでしょう。
さらに言えば、料理人にとっては「家庭で自分と同じ味が再現される」というのは、お客を奪われかねない事態でもあります。それでも彼ら彼女らが「協力したい」と思ってくれたのは、「中華料理を食べる人たちに喜んでもらいたい」という思いを料理人と味の素が共有していたからです。


