企業が顧客から信頼されるためには何が必要なのか。35年以上味の素に勤めた知財設計コンサルタントの勝沼依久さんは「味の素のお客様相談センターは、ただ問題を処理する部署ではない。クレームは関係の終了ではなく、むしろ関係を深める契機になっている」という――。

※本稿は、勝沼依久『「味の素」の最強ブランディング』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

マーボー豆腐の鉄板焼き
写真=iStock.com/deeepblue
※写真はイメージです

いつもの対応で40万件以上の「いいね」

情報交換の場で、しばしば話題になる味の素の事例があります。「やさしお」という、塩分を50%カットできる塩調味料に関するエピソードです。

ある小学生が、夏休みの自由研究で「やさしお」を舐めたところ、舌がひんやりと冷たく感じたことに疑問を持ち、お客様相談センターに手紙で問い合わせをしました。

相談センターは迅速に返答します。「『やさしお』が冷たく感じる理由は、原材料の1つである『塩化カリウム』の特性によるものです。『塩化カリウム』は、水に溶けるときにまわりから熱を奪う特性があります」というわかりやすい説明とともに、問い合わせの郵送に要した料金の切手を同封して返送しました。

この対応に感動した保護者の方が、「しっかりと返事がありました」というコメントを添えて、切手が同封されている写真をSNSに投稿したところ、40万件以上もの「いいね」が寄せられました。

味の素にとっては、長年続けてきた日常の対応でした。しかし、受け取った側にとっては、特別な体験として心に残ったのです。

クレームを未然に防ぐ「当たり前」

味の素がお客様相談センターを設置して30年以上が経過しています。

対話を重ねる中で培われた対応における心がけや取り組みは、社内では当たり前のものとして定着しています。しかし、その「当たり前」の中にこそ、クレームを未然に防ぎ、顧客から信頼を得るための本質が隠れています。

以下では、味の素のお客様相談センターが実践している取り組みを、「①対応方針」「②顧客と会社をつなぐ架け橋」「③顧客との価値共創」という3つの視点から見ていきます。

①対応方針「正確・迅速・親切」

味の素では、「正確・迅速・親切」に応えることを、お客様相談センターの行動指針としています。メーカーに直接連絡するという行為は、SNSでの発信とは異なり、相手の「人」と向き合う行為であり、ときには勇気を要するものです。その勇気に応えるためにも、正しい情報を迅速に届けることを大切にしています。

先ほどの自由研究の例では、回答が夏休み終了後であれば意味が半減します。また、科学的根拠に基づく説明でなければ、芽生えた好奇心を損なうことになりかねません。だからこそ、「回答は『正確』であることが前提」という認識を共有しています。各担当者は問い合わせ内容を相互に共有し、一貫性のある回答を迅速に提供できる体制を整えています。