評価はまさかの「2段階評価」
鈴木さんは、もっぱら人事や広報など管理部門を歩まれました。私も7年ほど、業務本部長として人事を統括していた時期があります。強く記憶に残っているのは、鈴木さんが「○○を□□に異動させるように」「○○を□□部長にするように」といった指示が一切出なかったことです。人事に自分の“色”が出てはいけないと自戒していたのではないでしょうか。
人事案については、常に私が提案を持っていきました。通常、人事評価といえば、高評価と低評価の間に中間の評価を加えた3~5段階評価が用いられます。これに対し、いかにも鈴木さんらしかったのは、「仕事ができている」「できていない」の2段階評価で○でも×でもない“△”的な中間を入れようとしなかったことです。入れると△が多くなる日本人の心理を読んでいました。この2段階評価は自身が30代でヨーカ堂に転じて人事課長に就いてから一貫したものでした。
人事について、これも鈴木さんらしかったのは、私が決めた「できている」の評価については必ず数字上の根拠を求められ、「できていない」については決して失格の烙印を押すことなく、どこに問題点があるのかを聞き、その問題点が改善されれば再評価ができるとして、「できていない」=「伸び代がある」と前向きにとらえていたことです。そのため、「○○君はその後どうなったか」とことあるごとに私に聞き、気にかけていました。
ある店長の異動辞令に「否」を
幹部クラスだけでなく、担当レベルについても異動の一覧表を提示していました。私が人事を統括していたころは、社員が6000~7000人いましたが、あるとき、その中の一人の異動について「否」を出されたことがありました。入社2年目の社員で直営店のA店の店長からB店の店長への異動でした。当時、歴の浅い社員の人事は任されており、「否」がでることなど滅多にないことでしたので、人事部全体に大きな衝撃が走りました。
「否」の理由は示されません。そこで私なりに推測しました。A店は近々閉店の予定だったので、その社員はA店の店長を3カ月だけ務め、異動することになったのですが、その事情を鈴木さんは知りません。一人の店長がその店の運営で力を発揮できるまでには1年はかかります。だから、「3カ月で異動」を問題視したのだろうと思い、A店の閉店の事情を示したところ、即、承認の印が押されました。厳しさの中にも人を育てることに常に気を配る経営者でもありました。
「否」を出されたとき、感じたのは「私に対する教育でもあるな」と。このエピソードが示すように、鈴木さんは部下からの提案に対して「否」を出すとき、その理由を示さず、必ず本人に考えさせました。それも鈴木さん流の部下の教育の仕方だったように思います。
それにしても、7000人にも及ぶ一覧表に目を通しながら「3カ月で異動」の箇所を見つける。セブン‐イレブンの2万店の店舗についても業績のデータを見ながら問題点を探る。数字を見る力に鋭いものがあり、データの数字を見ても表面的になぞって鵜呑みにすることなく、その中身や背景を突き止める。そのため、「データ主義の経営者」とも呼ばれたのだと思います。

