CEOは中国系アメリカ人

そんなことを考えながらカフェモカを飲み終えると、東京駅前のハイアールビルにある会社に向かった。

以前は丸ビルの愛称で知られていたが、いまや覚えているひとはほとんどいない。それ以外にも、サムスンプラザやタタ・ヴィレッジなど、東京都心の主要ビルはほとんどが外国企業の所有になった。

私が契約営業担当として働いているのはかつての財閥系大手不動産会社で、いまでは親会社もろとも中国の投資会社に買収され、本社はシンガポールに移転した。社員の半分は華人(中国人、台湾人、香港人、シンガポール人)で、CEOはスタンフォード大学でMBAを取得した30代の中国系アメリカ人だ。

華僑などから集めた資金で不動産ファンドを組成し、東京の都心部に富裕層向けのチャイナタウンを建設しようとしている。

高層ビルの窓から街を見下ろしている男性の後ろ姿
写真=iStock.com/xijian
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日本を目指す中国の富裕層

共産党の一党独裁のもとで市場経済を導入した中国では、富裕層は国や地方政府の共産党幹部との「関係グワンシ」で莫大な富を築き上げてきた。だが「反腐敗」の政治キャンペーンで権力者たちが次々とスケープゴートにされ、各地で「金持ちを吊るせ」という民衆の大規模なデモが起きるのを見て、いまでは自らの資産を守ろうと必死になっている。

中国社会が動揺するにつれて、ファンドには莫大な資金が流れ込んでくるようになった。最初は50億ドルでスタートしたのだが、それがいまでは1000億ドル規模にまで膨張し、アジア最大級の不動産ファンドになった。

通貨の信用が失墜しても、日本人が戦後、営々と築いてきた社会インフラの価値は変わらない。

東京のように、上下水道や電気・ガスはもちろんのこと、公共交通機関が網の目のように発達し、若い女性が深夜でも一人歩きできるほど治安がよく、ミシュランの星を獲得したレストランがいくつもあるような高機能の都市は世界でもまれだ。

海外の投資家、とりわけ中国の富裕層はそのことをはっきりと認識していた。

米中対立でアジア系に対する人種差別が欧米で頻発するようになると、彼らの関心は外国人にも法によって土地・建物の所有権が保障され、距離的に近く時差もないうえに、外見だけでは外国人と判別できず、中国共産党を批判する言論の自由がある日本に向かうようになった。