「法人」と「個人」ははっきり切り分ける

法人と個人で収入を分割する場合、それぞれの業務をはっきりと切り分けておく必要がある。

橘玲『新・貧乏はお金持ち』(プレジデント社)
橘玲『新・貧乏はお金持ち』(プレジデント社)

法人で本業を行ない、個人で株式投資や不動産経営をする(あるいは逆)なら問題はないが、同じような業務からの収入を便宜的に法人と個人に振り分けると、税務調査でどちらかの収入にまとめるよう指導されるだろう。

なお実務家のあいだでは、法人が社会保険に加入していても、役員報酬をゼロにすれば社会保険料は発生しないとされている(社会保険料は標準報酬月額に所定の料率を掛けて計算するので、報酬がゼロだと保険料もゼロになるという理屈のようだ)。

この場合は本則に戻って、法人の役員は国民年金と国民健康保険に加入することになる。

社会保険から合法的に抜けるこの“裏技”を使ったスキームも考えられるが、それは各自で考えてほしい。

国家税収にとっての「悪夢」

ここまで見てきたように、マイクロ法人を設立することで、磯野家は大幅に家計を改善できた。それではなぜ、日本国はこのような過大な優遇措置を長年にわたって認めてきたのだろうか。

2006年度の税制改正で、国税庁は「同族会社の役員給与損金不算入」の規定を新たに導入した。これによれば、「同族関係者が90パーセント以上の株式を所有」し、「常勤役員の過半数が同族」の場合は、役員報酬の給与所得控除が認められなくなった。

磯野家の節税スキームのポイントは法人と個人で経費を二重に控除できることにあったが、この新規定では給与所得控除の全額が法人の益金となって、中小事業者にとっては大幅な増税になる。

国税庁が規制に踏み切ったのは、新会社法によって従来よりもはるかに簡単に法人が設立できるようになることに強い危機感を持ったからだろう。

全国に膨大な数のサラリーマン法人が誕生し、それらが磯野家と同じことをはじめたら、国家の税収に甚大な影響を及ぼすことは避けられない。これは税務当局にとってまさに悪夢なので、機先を制してあらかじめ経費の二重控除を封じておこうとしたのだ。