政治的理由で輸入制限するのはWTO違反

背後に政治的な動機があることは明らかであるが、安全性の問題を理由として、中国は台湾からの果物の輸入を制限した。今回も同じケースである。中国外務省は、「高市首相が台湾に関する誤った発言をした」ことが理由の一つだと明確に述べている。

もちろん、WTOは、こうした政治的な理由で輸入制限をすることは認めていない。このようなことが認められれば、大きな市場を持つなど経済的に強い国は、他の国に威圧を加えて言うことを聞かせることができることになるからである。

なお、アメリカのトランプ政権が関税を使って他国に言うことを聞かせようとするのも、その一例である。しかし、上述の鉄鋼・アルミ関税のように、多くはWTO違反である。また、アメリカの措置は、中国から大豆の輸入制限を受けるなど、同程度の市場を持つ中国には効果を上げていない。

世界貿易機関(WTO)事務局長のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏が、2024年のWTOパブリックフォーラムで演説
世界貿易機関(WTO)事務局長のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏が、2024年のWTOパブリックフォーラムで演説(写真=©WTO/Tomas Cesalek BAP Services/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

WTOよりも実効的な手段

2.TPPの活用

もう一つは、最近注目を集めているTPP(環太平洋経済連携協定)を活用することだ。大きな自由貿易協定の特徴は、加入しないと高い関税を課されるなど不利となることから、加盟国が拡大することである。TPP成立後、イギリスが加盟し、韓国も参加の検討を表明している。

中国も台湾と並んで加盟申し込みをしているが、中国の加盟には労働、環境、投資などをはじめTPP協定の厳しい水準をクリアしなければならないという高いハードルがある。それだけではない。既加盟国は新規加入国にさまざまな要求をすることができる。

「WTO協定という基礎的なルールに従わない国は参加させない」という要求を中国に行うことは十分に可能である。多くの国が加盟するようになると、中国はTPPという自由貿易圏から排除されるかもしれないという恐怖を持つようになる。その時に、高いレベルのTPP協定だけでなく、WTO協定の順守を要求するのだ。これは、直ちに実行できるものではないが、WTO提訴よりも実効的で強力な効果を持つことになるだろう。

中国のWTO加盟交渉は15年ほどかかった。このとき、中国は台湾より先に加盟することにこだわった。中国のメンツとして台湾に劣後することは耐えられなかったのである。中国よりも台湾の加入を先にするよう揺さぶりをかけるのも、一つの方法である。

3.中国以外の市場開拓

問題のより根本的な解決を目指すなら、わが国は中国以外の水産物市場を開拓していくことだ。中国が経済的威圧を行うのは、相手国が中国市場に依存していると認識しているからである。日本が他の市場開拓に成功すれば、中国の経済的威圧は効果がなくなる。

中国は巨大市場を利用して輸入制限による経済的威圧を加えてきたのが、今回の例である。新型コロナの震源地が中国だというオーストラリアの主張に対し、中国は同国産の牛肉や大麦の輸入を禁止した。これも検疫措置を理由とした措置だった。

輸出制限については、中国は独占的な供給力を持つレアアースの輸出禁止をちらつかせた。これに対して、アメリカの企業(MPマテリアル)は、近年レアアースについて大きな埋蔵量を持つことが明らかになったサウジアラビアにレアアース精製施設を開発する戦略的合弁事業を行うことを発表した。これはアメリカ政府とサウジアラビア間の重要なサプライチェーン確保に関する戦略的協力の枠組みに続くものであり、中国の独占的な市場支配力を崩し、アメリカの経済的・国家安全保障上の利益の強化を目指している。同様のことを中国の輸入制限に対して行うのだ。