原子力を国策の基幹産業とするフランス政府にとって、EVは望ましいモビリティである。伝統的に強い産業政策を是とすることもあり、フランス政府は引き続き、EVシフトを重視する。フランス政府はスペイン政府と共に、2035年までに新車のEVシフトを実現する目標を堅持するよう欧州委員会に対して書簡を送ったと報じられている。
一方、フランスの自動車業界は、EV生産に伴う事業リストラのみならず、中国製の廉価なEVの脅威にも晒され、EVシフトへの疑義を強めている。同様の構図は、スペインにも共通するところがある。左派連立政権であるスペイン政府は、環境保護の観点からEVシフトを重視する。一方、自動車業界はEVシフトの方針に反発を強める。
それにスペインの場合、政権が少数与党だという問題もある。第一党である中道右派の国民党は財界寄りであり、社会労働党が推進してきた環境政策に対しても修正を求めている。民意もかつてほど環境対策を支持しておらず、EVシフトにも見直しの余地がある。にもかかわらず、議会の過半を得ていない政権は、それを認めようとしない。
多様なアクターをまとめきれない
残る大国であるイタリアの場合、ドイツ程ではないが、基本的な構図はそれに近い。つまりイタリア政府も自動車業界も、EVシフトには慎重だということである。ここで四大国の基本的な構造を整理すれば、ドイツを急先鋒とすると、イタリアがそれに続くEVシフトの見直し派だ。他方でスペインは現状維持であり、極北がフランスとなる。
政治がねじれているスペインの場合、右派が政権に返り咲けばドイツとイタリアに接近する公算が大きい。フランスは、マクロン大統領が率いる中道勢力だろうと、対立する右派勢力だろうと左派勢力だろうと、基本的に強い国家の下で経済を統制しようとするため、政権交代があっても、政府のスタンスが一転することは想定し難いところだ。
EUはEUで、自らの求心力の低下を容認するようなものだから、EVシフトの見直しには慎重にならざるを得ない。少なくともフォンデアライエン委員長が退任するまで、EUが大々的にEVシフトを修正する展望は描けない。フォンデアライエン委員長の任期は2029年11月だから、2035年という時間軸が強く意識される頃である。
