私はアジア、ヨーロッパ、中東、アフリカ、北米、南米と、世界各国の一般家庭を回り、家計を調べたことがある。しかし、日本のように「家計簿」をつけている家はほとんど見当たらなかった。

海外の家庭で家計簿をつけないのはなぜか? それはとりもなおさず、必要性が低いからなのだろう。先進国、発展途上国を問わず、外国人は基本的に、お金が入るとそっくり使ってしまうことが多かった。日本人のように家計を切り詰めて、老後の生活費として計画的に貯蓄に回すといったことはしない。私が取材したのは中流以上の家庭ばかりだったが、それでも年収以上の貯蓄がある家は、ほんの一部でしかなかった。

(PIXTA=写真)

だからといって、外国人の金銭感覚がルーズと考えるのは早計だ。彼らの生活環境や経済観念は、我々とは大きく異なるからである。エジプトの男性の平均寿命は、今でも65歳前後だという。日本のような「超長寿国」と違って、老後の生活費や医療費はさほどかからない。そもそも海外の多くの国では、「若く元気なうちに好きなことをして、年を取れば、死んで神に召されるのが自然」と考えている。そのため、老後に備えて蓄える必要性を感じず、家計簿で家計の管理をすることがほとんどないのだろう。

それに考えてみたら、どこの国も一寸先は闇で、何が起こるかわからない。発展途上国なら、政変で社会がひっくり返るかもしれない。その国の大銀行が経営破綻することだってありえる。将来を心配するより、今あるお金を自分や家族のために使って、人生をエンジョイするほうがいい──。それが世界を回って気づいたグローバルな価値観のようだった。

ただし、外国人も子どもの教育にはお金をかけている。取材した家庭の多くは、学費が高いのにもかかわらず、教育水準の高い私立校へ子どもを通わせていた。それというのも、将来への一種の「投資」であるからだ。海外では親の面倒を子どもがみるのは当たり前。とりわけ、社会保障制度が整っていない発展途上国では、リタイア後は子どもに頼るしかない。子どもによい教育を受けさせ、高収入を得られる職業に就いてもらえば、親も多くのリターンを期待できるというわけだ。

また、海外では共働きが多く、家計について夫婦はフィフティー・フィフティーで、どちらかが主導権を握るということは少ない。特にヨーロッパでは、夫婦の財布は別々というケースが多い。女性の社会進出が盛んという背景もあるが、見逃せないのは離婚率の高さだ。ロシアやスウェーデンの離婚率は5割に達するとも聞く。離婚するには女性の経済的自立が不可欠だし、財産分与の煩雑さを考えても、家計を初めから分けたほうが合理的なのだろう。

(構成=野澤正毅 写真=PIXTA)
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