造船やプラント建設など 周辺産業に広がるビジネスチャンス
シェールガス革命が世界に及ぼす影響は、天然ガス市場にとどまらない。世界的にシェールガスの増産・輸出が本格化すれば、ガス田の掘削に必要なシームレス鋼管などの部材の製造や、ガスを世界中で運ぶためのパイプライン敷設、採掘したガスを貯蔵・液化天然ガス(LNG)化するためのプラント建設、運搬船建造などの需要が発生する。いずれも兆単位の一大案件になると見込まれており、関連企業が受注獲得にしのぎを削っている。
日本関連でみると、LNG取引の有力プレーヤーである三菱商事や三井物産、住友商事など大手総合商社は、すでに北米で有望なガス権益を獲得し、さらなる規模拡大に向けて活動を進めている。今後増設が予想されるLNG運搬船の建造では韓国勢が優勢だが、日本企業も燃費効率を高め、新パナマ運河にも対応した船体設計の次世代LNG運搬船を導入するなどして競争力を高めている。三井造船と川崎重工という日本の造船大手2社は、LNG運搬船部門で連携して受注を目指すことを明らかにしている。
天然ガスは石油に比べてCO2排出量が少ないため、地球温暖化への配慮から燃料を石油や石炭から、ガスへと転換する動きも目立ってきた。オバマ政権は、電気自動車とNGV(ガス自動車)Natural Gas Vehicle)購入者へ補助金を給付するなど、ガス自動車の普及に意欲的だ。ひょっとしたら、将来はガソリン自動車が姿を消し、環境に優しいガス自動車が主流となるかもしれない。NGVが本格的に普及すれば、日本の自動車メーカーがCNG仕様車で培ってきた技術力を生かし、新たな市場を開拓する可能性も出てくるだろう。
エネルギー価格の低下と安定供給、新産業の創出……バラ色に見えるシェールガスの開発だが、負の影響もある。米国で天然ガスや石炭などが余剰となり欧州に流入した結果、従来型の一部ガス権益の評価は下がっている。石油化学の分野でも、米国で格安の石油化学製品を製造できるようになれば、既存メーカーは打撃を受ける公算が大きい。環境面でも、シェールガスの掘削方法が水質汚染につながるとの懸念が指摘されている。
さまざまな課題を抱えながらも、シェールガスは世界のエネルギーの主流になりつつある。歴史的な転換点を迎えたエネルギー市場に対応できるか否かが、これからの世界経済を読み解くカギを握っている。