ごく普通の暮らしの中に楽しみを見出す
私の好きな和歌をいくつか挙げてみよう。
①「たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ 頭ならべて 物をくふとき」
一家団欒の風景を詠んだものだ。「いただきます」と言って箸をとる。夫婦2人で、または子どもたち、孫たち、友人知人と一緒に食事をする時が一番楽しいと言い換えてもよいだろう。
②「たのしみは 物識人に稀にあひて 古しへ今を 語りあふとき」
聡明な人と出会って、昔のことや今のことを自由に語り合って話が弾む。このような刺激を受ける人とのつながりはほしいものだ。生活に張り合いを持たせてくれるだろう。今は、ネットやSNSを通じて、そういう関係を作るチャンスがあるかもしれない。
③「たのしみは いやなる人の来たりしが 長くもをらで かへりけるとき」
苦手な人が訪ねてきたが、長居をせずに帰ってくれてほっとしたという。積極的な楽しみだけではなく、日常の中にある小さな喜びも取り上げているのが面白い。
これらのように、ごく普通の暮らしの中から楽しみを見出すという姿勢こそ、「定年後、その後」世代が求めているものではないだろうか。
1日ひとつ「たのしみは~」と詠んでみる
橘曙覧の「独楽吟」の52首をぜひ味わってみてほしい。そして、自分で身の回りの楽しみを歌にしてもよいかもしれない。
和歌に自信がないという人は、ノートやパソコンでもいいので、1日にひとつ「たのしみは~」から始まる文章を作ってみてはどうだろうか。2〜3カ月続けると、自らの楽しみの内容や好みの傾向もわかってくる。また、毎日書くことで、自然に日常生活の中から楽しみを探し出そうとするようになる。
かつて私は、「1日にひとつエエことメモ」という形で、1日で一番よかったことを毎日パソコンに打ち込むようにしていた。その効果を実感したことがあったので、このメモを書くことを周囲にも勧めている。
頭の中で考えているだけではなく、実際に文字にすることで「私はこんなことに興味があったのか」と気づくのだ。
「定年後、その後」になると、これから新しい能力を身につけたり、努力して成長することは難しくなる。今、自分が持っているものを大切にして、その中に“いい面”を見つける力が問われているのだ。

