「日本は光の国」という誤解

実際には、日本の変化に富んだ四季は、湿潤な大気感と複雑な陰翳いんえいをもたらすものであり、浮世絵の平坦な色面は、木の板に版を彫って刷るという木版の技術的な制約から生じた様式でしかない。が、髪の毛の1本まで再現する浮世絵の彫りの技術や、微妙この上もないぼかしを生む刷りの技術に圧倒されたヨーロッパ人は、この精緻せいちな木版技術が陰影を表現できないなどとは想像もつかなかったに違いない。

影を「描かない」のではなく、影を「描けない」浮世絵の風景を鵜呑うのみにしたヨーロッパの人々の多くは、ゴッホと同様に、日本を南仏のような光あふれる風土の国と思い込んでしまったのである。