私のノートの理想はレオナルド・ダ・ヴィンチです。彼のノートの中には、おびただしい数のスケッチや鏡文字に加えて、その時々の思いや、詩や論文まで記述してある。仕事もプライベートもまったく分けていない印象です。

作家・大阪芸術大学客員教授 <strong>岡田斗司夫</strong>●1958年、大阪府生まれ。自ら実践したダイエットがテーマの『いつまでもデブと思うなよ』がベストセラーに。『レコーディング・ダイエット決定版手帳』を2010年1月に発売。
作家・大阪芸術大学客員教授 岡田斗司夫●1958年、大阪府生まれ。自ら実践したダイエットがテーマの『いつまでもデブと思うなよ』がベストセラーに。『レコーディング・ダイエット決定版手帳』を2010年1月に発売。

手書きのノートのよさは、自由度が高いことです。感情まで込めることもできますし、仕事とプライベートをときにリンクさせ、相乗効果を発揮することもできる。私がダイエットに成功したのも、仕事の発想をプライベートに持ち込んだからです。あらかじめ焼き肉食べ放題に行く日が決まっているのなら、その前日までに「段取り」としてカロリーを控えめにしておきます。家族との予定も自分の見たい映画も、どんどんあらかじめスケジュール帳の未来の日付に書き込んで、その予定を前提にしてしまう。つまり、仕事上の「段取り」を日常に応用するのです。

人間は幸せになるために生きています。ノートに、自分の心配や課題を書いておけば、忘れても大丈夫。心置きなく彼女と会ったり、美味しいご飯を食べたりできます。そして、あとで気が向いたときに読み返せるようにしておけばいい。

ノートは高校時代からつけていて、いろんな使い方を試してきました。何十年もの試行錯誤の末に行き着いたのが「一冊のノートを常に持ち歩き、そこにすべて書き込む」というごく単純な方法です。

テーマ別にノートを使い分けたり、メモを持ち歩いてあとでノートに転記しようなどと、手間のかかる方法を選んだりすると、1カ月で挫折します。アウトプットを前提に、焦って意味を求めようとするのは、土地を耕さずに収穫だけ急ぐようなもので、結果的に自分が痩せてしまいます。

目的を深く考えずに、単に書くということをずっと続けて、そのノートをどう使うかは未来の自分に任せてしまえばいい。大事なのは毎日記録をすることなのです。ボールペンもこだわる必要はありません。色も一色でいい。私の経験からすれば、継続的に書き溜めたノートは、使い勝手のいい「自分の百科事典」になっているはずです。

僕が使っているのはA4判の横罫のノートで、これにちょっとした思いつきから次に出す本の企画、仕事部屋の整理のアイデアまで何でも書き込みます。読んだ本も一字一句引き写すようなことはせず、印象に残った内容を自分の言葉で簡単に書いておけばいい。もし、しっかり引用しなければならなくなったら、そのときに本を見返せばいいのです。どこかに日付を入れておけばそれがインデックスになるので、あとから見返しても検索に困ることはありません。

「オタク」からダイエットまで、幅広い著作を持つ岡田さん。「継続」に重点をおき、ノートの種類にもこだわりはない。
「オタク」からダイエットまで、幅広い著作を持つ岡田さん。「継続」に重点をおき、ノートの種類にもこだわりはない。

はじめから完璧なノートを作ろうとしてはいけません。未完成のまま、あとで書き足したくなる工夫が必要です。

スペースは一つのテーマにひと見開きを充てますが、いつも左ページを空けて右ページから先に書き始めます。最初に書くのはアイデアや仮説がほとんどです。そして空白になった左ページにはあとから思いついたことを書き足していく。たいていは仮説に対する反論だとか検証、ツッコミのようなものでしょうか。自分一人の中にも矛盾した意見を含めてさまざまな考え方が混在しているので、それをノート上にすべて吐き出すのです。

意見が百出する学級会さながらの状況になったら、今度は自分が学級委員長になったつもりでそれを眺めてみる。本物の学級会と違うのは、すぐに結論を出さなくてもいいという点です。

ノートの右側から書くのは、通常とは逆の順番ですが、それによって左ページの空白に違和感が出るでしょう? すると人はそれを調和させようとして何かを書き足したくなる。余白に対する不安は人間を創造的にさせるようです。そうやって、小さな思いつきを検証してふくらませていくことが、頭のトレーニングになる。ノートは、考える習慣をつけていくうえで、僕の中では欠くことのできない自己投資のツールになっています。

(プレジデント編集部=構成 的野弘路、熊谷武二=撮影)