「世界のエリート」という言葉は魅力的に響く。しかし、たとえばアメリカで高収入を得ているエリート層は、社会的に成功していても新しい種類の不幸に見舞われている。成功と幸福はどう違うのか。「成功ルール」を検証した全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社)によると、「幸福の基準」についても研究されており、ビジネスパーソンに実行可能な指針となっているという。その基準とは――。

袋小路にはまりゆく世界のエリートたち

5万ドル以上の所得がある2300人の消費者を対象に行った調査では、「向上心が強く、ストレスが高く、周囲から孤立し、不安を感じている」人びとの存在が明らかになった。「コミュニティの一員だと感じている」「仕事と私生活のバランスが取れている」「親しい友人が多い」と回答したのはそれぞれ、被験者10人中4人以下だった。また、「自分の容姿に満足している」と答えたのは10人中3人で、「恋愛関係に満足している」と答えた者はわずか18%だった。

エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)

2008年にアメリカ人を対象に行われた調査では、被験者の52%が、ストレスのために夜眠れずにいると回答し、40%はストレスがひどいときは泣きたくなると答えている。また女性の3人に1人は、自分のストレスレベルが10段階で8か9、場合によって10だと答えている。

同様に、家族との時間にも影響が及んでいる。1980~97年のあいだに家庭での会話は100%減少した。そう、100%だ。同調査の報告者によると、「1997年に、平均的アメリカ人は、家族との語らいを中心に過ごす時間が週当たりでゼロだった」。報告者はさらに続ける。

「2000年にYMCAが行ったアメリカの10代を対象にした標本調査では、回答者の21%が、『両親と過ごす時間が充分にないこと』を最大の懸念として挙げている」

ごく平均的な10代の一番の心配事が親とあまり会っていないことだとすると、たしかに問題だ。

ナンバーワンになりにくい世界でとるべき戦略

では、昔ながらの上昇思考で生きる代わりに私たちにできることは何だろう?

まず、あなた個人にとっての成功を定義することだ。周囲を基準に、自分が成功しているかどうかを判断するのは、もう現実的ではない。他者との比較で、相対的に成功をおさめようとするのは危険だ。

あなたの努力や投資のレベルが他者によって決定されるので、つねに誰かに追いつこうとして全速力で走り続けなければならない。「ナンバーワンになりたい」と漠然と言っていても、誰もが不眠不休で働くグローバルな競争の中ではまったく歯が立たない。また、私たち現代人は、選択肢と柔軟性を望み、それを獲得した。もはや外部から限界を課せられないので、際限なく仕事を選択することも可能になり、歯止めがなくなった。世界はあなたに、どこまでも走り続けろと言うだろう。