テスラモーターズ。2008年に販売したスポーツタイプのEV「ロードスター」(日本での価格は、1340万6400円から)が、ハリウッドスターやセレブの間で大人気の電気自動車メーカーである。スタート100キロメートル加速が4秒以内と、ポルシェを超える性能が売りだ。

10年5月、同社は一挙に脚光を浴びることになる。トヨタが約41億円で3%の出資をし、EVの共同開発を決め、パナソニックも11月に約25億円を投じて、株式の約2%を取得し、電池の共同開発を表明したのだ。この日本の巨大企業が秋波を送る新興企業のCEO、イーロン・マスク氏のほか、キーマン2人の素顔に迫る。

カート・ケルティ ディレクター

<strong>カート・ケルティー ディレクター</strong>●(電池開発担当)
カート・ケルティー ディレクター●(電池開発担当)

1991年に松下電器産業(現・パナソニック)に入社し、15年間勤めましたが、そのうち13年間は松下電池工業で、電池の開発に携わっていました。そして06年2月、松下を辞めると同時にテスラに入社しました。

いまから5年近く前の話ですが、当時、バッテリーメーカーがEV用に電池を売るという発想は全くありませんでした。彼らはたとえビジネスの引き合いがあったとしても、安全性の面から仕事を断っていたし、それは日本メーカーも韓国メーカーも同じでした。そこで、テスラとしては電池の安全性を必死で説明し、何とか理解を得るための努力が、結構大変な時期でした。

日本は世界一の電池技術を持っている。だから、最初から日本メーカーのリチウムイオン電池「18650」が欲しかったのです。松下、三洋電機、ソニーの3社と何度も交渉をしましたが、3社ともEV用の電池の販売は考えておらず、逆に彼らから安全性に関する厳しい質問を浴びせられるだけで交渉が進展しませんでした。そんなとき、ある交渉先の技術者の中に一人だけ理解者がいたおかげで、06年末頃、電池購入の契約にまでこぎ着けました。

これをきっかけにロードスターの開発が軌道に乗ったわけですが、テスラの電池制御技術で革新的なのは「電圧」と「温度」の2つがあります。

電圧に関しては、100%まで充電してキープし続けると寿命が持たないので、基本的に90%までしか充電しない仕組みにしたこと。もう一つは、40度くらいの高い温度になると寿命が短くなるので、液体を流して常に冷やした状態にしていることです。

加えて、電池のモジュールごとに基板を置いて電気の流れをコントロールしています。モジュールの数は631個にのぼりますが、1個1個すべてに基板が付けられ、電池を長持ちさせながらいかに最高の走りができることを追求しています。この基板の設計は我々自身が手掛けていて、そこにテスラの強みがあると思っています。