昭和大学歯学部教授 馬場一美氏●昭和大学歯科病院・副病院長。昭和大学歯学部歯科補綴学教授。歯学博士。1962年、広島県生まれ。東京医科歯科大学卒。

高齢になるにつれ、歯の数は少なくなる。40~45歳では平均1本だった歯の喪失が、60~65歳では平均6本にまで増える。もし、読者が40代だとすれば、退職するまでの20年間で平均して5本くらいの歯を失うことになる。そして、後期高齢者(75歳以上)では平均10本弱、2人に1人の割合で総入れ歯を使っている。インプラントなど歯科の技術は日進月歩の勢いで進んでいるが、もともと生えている、健全な歯の機能が戻ってくることはない。よって、今ある歯をいかに維持していくかが大切になる。

歯の喪失の大きな原因は2つある。一つは虫歯で、もう一つが歯周病だ。虫歯も歯周病も主な原因は歯垢(プラーク)にあるので、歯と歯茎の周りのプラークを歯ブラシやデンタルフロスによって除去する必要がある。そのためには朝、昼、晩の1日3回の歯磨きを欠かさずに行うこと、なかでも夜の歯磨きが一番大切だ。就寝中は、唾液があまり出ないので虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすいからだ。

歯の喪失が進んでブリッジや義歯が増えるほどメンテナンスは難しくなる。歯科医院での定期検診は、1本も欠損のない人で1年に1回、1本でもブリッジや義歯、インプラントがある人は、6カ月に1回の割合で受診したい。ところで歯ぎしりや食いしばりでも歯が悪くなる人がいる。そのまま放置しておくと、歯がすり減るだけでなく、欠けたり折れたりするし、インプラントやかぶせたものまで破損する場合がある。歯周病も悪化する。顎(あご)の関節が痛んだり、口が開かなくなったりする顎関節症の原因になり、肩こりや頭痛なども引き起こすことがある。