※本稿は、下矢一良『ずるいPR術』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
テレ東記者が驚いた「孫正義社長の会見」
テレビ東京の記者時代、そして現在のように中小企業専門のPR支援に取り組むようになってからも、私は数えきれないほどテクノロジー企業の記者会見や新商品発表会を目にし、あるいは関わってきました。そのなかでも私が最も驚いたのが、ソフトバンクが2014年に発表したロボット「Pepper」の発表会です。
孫社長は、「Pepper」を「世界初の、感情を持ったパーソナルロボット」として発表しましたが、私が驚いたのは発表会見でもプレスリリースでも、「ロボットが感情を持てるようになった技術的要因」をほとんど説明していないことでした。せいぜい「感情エンジンがクラウドの人工知能で動作する」といった程度です。
発表会見にはテレビや一般紙だけではなく、技術系の専門メディアの記者も出席していたのですが、感情エンジンの技術仕様に関する質問はまったく出ませんでした。
マスコミは「Pepper」をどのように報じたか
メディアは続々と発表会を報じました。たとえばテレビ朝日の日曜のニュース番組でのタイトルは「ソフトバンク・人型ロボット『Pepper』発売へ・世界初!『感情を持つ』ロボットを直撃取材」でした。日本経済新聞は「『家族の一員』にロボット、ソフトバンク発表」との見出し、そしてサブタイトルには「20万円切る、感情理解、話し相手に」となっています。他のメディアも「感情エンジン」の技術面については、まったく触れていません。孫社長が会見で語ったように、「感情を持ったロボット」とだけ報じています。
記事のタイトルで「感情を持つ」とカギ括弧で括っているものも多くあります。これはメディア側が「自分たちとしては本当にロボットが感情を持っているかどうかはわからないが、ソフトバンクはそのように主張している」という意味を込めています。つまり、メディア側は「本当に感情を持っているかどうか」判断する責任を回避しているのです。
ただソフトバンクのPR戦略として考えると、「感情エンジン」の技術仕様に踏み込まなかったのは大成功でした。各メディアの記事にカギ括弧がついているかどうかなど、一般の人たちは気にしないからです。孫社長は「自分が伝えたいこと」をメディアにそのまま報じさせることに、完全に成功しているのです。

